高市早苗政権が今月中に取りまとめる経済対策では、AI・半導体・バイオなど17の戦略分野を対象とした「大胆な減税」が焦点となっています。
これまで中小企業向けが中心だった設備投資の税制優遇を拡大し、企業規模を問わず適用する新制度の創設が検討されています。
税理士実務としては、即時償却の導入や税額控除方式の設計がどうなるかが大きな関心事です。
本稿では、制度の方向性と仕訳・税務処理への影響を中心に整理します。
1.新税制の位置づけと狙い
政府は「危機管理投資」として、社会的リスクや供給制約を克服する分野への民間投資を後押しする方針を示しています。
その中心に据えられるのが「大胆な設備投資促進税制」です。
従来の「中小企業投資促進税制」や「中小企業経営強化税制」の枠を超え、企業規模を問わず、成長分野への投資を支援する制度に拡張する構想です。
減税の仕組みとしては、次の2つが軸になる見通しです。
- 税額控除方式:投資額の一定割合(例:5~10%)を法人税額から直接控除
- 即時償却方式:取得価額の全額を初年度に損金算入
この2方式はいずれかを選択する形が想定されており、現行の中小企業投資促進税制に類似した設計になる可能性があります。
いずれもキャッシュフローを改善し、投資余力を高める点で共通しています。
2.即時償却の会計・税務処理
通常の減価償却では、機械や建物等の取得価額を耐用年数に応じて毎期按分します。
たとえば1,000万円の機械(耐用年数5年・定額法)なら、毎期200万円を費用化します。
一方、即時償却が適用されると、初年度に1,000万円全額を損金算入できます。
これにより、初年度の法人税負担が軽減され、手元資金を再投資や賃上げに回す余地が生まれます。
仕訳は次のようになります。
(借方)減価償却費 10,000,000 /(貸方)建物・機械等 10,000,000
通常は固定資産として計上後に毎期償却しますが、即時償却の場合は取得時点で全額費用化します。
税務上は損金算入が認められても、会計上は資産計上が基本であるため、**会計・税務の差異管理(別表四・五の調整)**が必要です。
3.税額控除方式の計算と留意点
税額控除方式を選択する場合、法人税額から一定割合を直接控除します。
たとえば、投資額1,000万円・控除率10%・法人税額1,200万円の場合:
控除額:1,000万円 × 10% = 100万円
法人税納付額:1,200万円 − 100万円 = 1,100万円
控除しきれない額は、翌年度への繰越控除(例:1~3年)が認められる可能性があります。
ただし、外形標準課税対象法人では、法人事業税部分には適用できません。
また、租税特別措置法上の他の控除(研究開発税制など)と重複適用の可否が論点になります。
4.実務対応と今後の論点
即時償却や税額控除を適用する場合、税理士としては以下の点に留意する必要があります。
- 対象資産の範囲(AI関連設備、エネルギー効率向上設備、量子関連機器など)
- 導入・使用開始日(取得日基準か稼働日基準か)
- 取得価額の按分(共用資産・中古資産の扱い)
- 資産除却時の取扱い(即時償却後の売却損益処理)
- 他制度との重複(研究開発税制・グリーン投資減税との関係)
特に会計上は、資産計上・償却と税務上の即時償却の差異を明確にし、法人税申告書上の調整表を正確に作成する必要があります。
適用判定の証憑(契約書・納品書・使用開始証明)も、税務調査時の重要書類になります。
結論
高市政権の「大胆な減税」は、単なる景気刺激ではなく、供給力強化と成長投資の促進を狙う構造改革型の税制です。
税理士としては、即時償却・税額控除の制度設計を早期に把握し、顧問先の投資計画・資金繰り・会計処理に反映させる支援が求められます。
今後、年末の与党税制改正大綱に向けて制度の詳細が固まる見込みですが、適用要件や期間、資産範囲などの細部次第で企業の意思決定が大きく変わります。
政策の意図を理解しつつ、実務対応を先行して準備することが、顧問税理士としての最適解といえます。
出典
日本経済新聞「『大胆な減税』成長投資促す AIなど17分野」(2025年11月9日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
