「大胆な減税」が拓く新成長戦略 ― 高市政権の経済対策を読み解く

政策

高市早苗政権が今月中にまとめる経済対策の柱として、「大胆な減税」が浮上しています。
人工知能(AI)やバイオ、量子、エネルギーなど17の戦略分野における設備投資を促し、日本の供給力と競争力を底上げする狙いです。
複数年度にわたる予算措置を導入し、企業が将来の投資を見通しやすい環境を整える構想は、これまでの「単年度主義」とは一線を画すものです。
本稿では、高市政権の経済対策の方向性とその税務的・経済的インパクトを整理します。

今回の経済対策は、物価高や米国の関税措置など外部環境の不確実性が高まるなかで、企業の国内投資を下支えする構造的施策として位置づけられています。
高市首相は「危機管理投資」をキーワードに掲げ、AI・半導体・造船・エネルギー安全保障といった17の戦略分野を明示しました。政府と民間が連携して社会課題やリスクに備えることで、成長の基盤をつくる考えです。

注目すべきは、「大胆な設備投資促進税制」の新設構想です。従来の中小企業中心の優遇措置を拡大し、企業規模を問わず投資額の一定割合を法人税から直接控除する方向で検討が進んでいます。さらに、減価償却を初年度に一括計上できる「即時償却」も導入候補に挙げられています。
通常、機械設備などは耐用年数に応じて複数年にわたり償却されますが、即時償却を認めれば初年度に大きな損金を計上でき、キャッシュフローが改善します。結果として、手元資金を再投資に回しやすくなる効果があります。

海外ではすでに同様の流れが進んでいます。米国では第1次トランプ政権下で法人税率の引き下げと即時償却を導入し、ドイツも2025年度から年間最大30%の特別償却を認める制度を承認しました。
高市政権が掲げる「大胆な減税」は、こうした国際的潮流を踏まえた競争的な税制改革といえます。

また、予算面でも重要な転換が進んでいます。政府は特定分野に限り、複数年度の予算をあらかじめ設定し、総額と年度ごとの支出額を明示する仕組みを検討しています。単年度主義のもとでは難しかった長期的な研究開発やインフラ投資を、国家戦略として安定的に支援できるようにする狙いです。

高市首相は就任以来、「税率を上げずに税収を増やす経済」を掲げてきました。企業収益の向上によって結果的に税収基盤を拡大し、賃上げや雇用にも波及するという「成長と分配の好循環」を目指しています。
今回の経済対策は、その構想を実行に移す初の包括的パッケージになる見通しです。


結論

「大胆な減税」と「複数年度予算」は、日本経済の政策運営における大きな転換点となります。
短期的な景気刺激策ではなく、AI・バイオ・エネルギーなど将来の成長分野に資金を集中させることで、民間主導の持続的成長を実現できるかが問われます。
同時に、減税の財源確保や税制の公平性、投資効果の検証といった課題も残ります。
税制と予算を一体で再設計する今回の試みが、真に「稼ぐ力の強化」につながるのか。今後の政策形成と与党税調での議論に注目が集まります。


出典

日本経済新聞「『大胆な減税』成長投資促す AIなど17分野」(2025年11月9日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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