社会保障の根幹にあるのは、世代間の支え合いです。現役世代が支払う保険料で高齢者を支える「仕送り型」の構造は、長く日本の制度を支えてきました。
しかし、少子高齢化が急速に進む中で、この仕組みは持続の限界に近づいています。高市政権は「共助型社会保障」への転換を掲げ、現役・高齢・企業のそれぞれに新たな役割を求めようとしています。世代間の公平をどう実現していくのか、三つの視点から考えます。
現役世代 ― 負担増と将来不安のはざまで
働く世代が感じているのは、「支えても報われない」という不安です。給与から天引きされる社会保険料は年々上昇し、手取りの減少を実感する人が増えています。
厚生年金や医療保険の保険料率は上限に近づき、企業と折半とはいえ、実質的な負担感は重くなっています。特に子育て世帯では、教育費や住宅費に加え、親世代の医療・介護費も家計を圧迫します。
現役世代の中には「自分たちが高齢者になる頃、同じ手厚い保障は受けられないのではないか」との懸念が強まりつつあります。制度への信頼を取り戻すには、負担と給付の見通しを明確にすることが欠かせません。
高齢世代 ― 支えられる側から支える側へ
一方で、高齢者の中にも「支えられるだけの存在ではいたくない」という声が増えています。健康で働く意欲のある高齢者が増加し、年金受給と就労を両立する人も多くなりました。
平均寿命が延びるなか、「65歳以上=一律に高齢者」とする発想が現実に合わなくなっています。年金や医療などの制度も、「年齢」ではなく「能力」や「所得」に応じた仕組みに再設計する時期に来ています。
また、高齢者の多くは地域社会でボランティアや子育て支援などの形で「社会的な支え手」として活動しています。高齢者を「支えられる側」から「共に支える側」へ位置づけることが、共助型社会保障の鍵となります。
企業 ― 雇用・負担・社会的責任のバランス
企業にとっても、社会保障は人件費構造に直結する課題です。厚生年金や健康保険の保険料負担は給与の約15%に達し、労使双方の重荷になっています。
同時に、企業は「社会の担い手」としての役割も求められています。高齢者雇用の拡大、子育て世代への支援、健康経営の推進など、社会保障と企業経営は切り離せなくなっています。
中小企業では、保険料負担が経営を圧迫し、正社員採用や賃上げの抑制につながるケースもあります。企業側の努力だけで共助を実現するには限界があり、制度側の支援策や税制面の調整が不可欠です。
再分配の再設計 ― 「支え合いの形」を問い直す
現行の社会保障は、現役から高齢へと一方向に流れる「縦の再分配」が基本構造です。
しかし今後は、世代間だけでなく、世代内でも再分配を機能させる必要があります。
例えば、同じ高齢者でも所得や資産に大きな差があります。高所得層が多くの給付を受ける構造を見直し、負担能力に応じた給付と負担の再設計を進めることが重要です。
同時に、世代を超えた支援の循環――たとえば高齢者が地域で子どもを支え、現役世代が親世代を支援する――といった「共助の輪」を社会全体で支える仕組みづくりが求められます。
結論
社会保障の持続可能性を高めるには、単なる制度改正ではなく、社会の価値観の転換が必要です。
現役世代が希望を持てる負担構造、高齢者が尊厳をもって支え合える仕組み、企業が社会的責任を果たしながら成長できる環境――それぞれの視点が調和してこそ、本当の「共助型社会保障」が実現します。
「仕送り型」から「共助型」へ。これは負担を分け合うだけでなく、世代を超えて「つながり直す」挑戦でもあります。
出典
・厚生労働省「全世代型社会保障構築会議」資料
・財務省「財政制度等審議会」資料(2025年)
・日本経済新聞「社会保障5つの論点」シリーズ(2025年11月)
・日本商工会議所「企業の社会保障負担と雇用への影響調査」(2024年)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
