税務調査と聞くと、「不正を疑われるのではないか」「重いペナルティが科されるのではないか」と不安を感じる方も多いと思います。
一方で、実際の調査では、すべてが不正として扱われるわけではありません。
税務の世界では、「意図的な不正」と「単なるミス」は明確に区別されています。
AIが活用されるようになった現在、この線引きはどのように行われているのでしょうか。
第4回では、不正とミスの違い、そしてAI時代における税務リスクの考え方を整理していきます。
税務上の「不正」とは何か
税務調査における不正とは、単に税額が間違っていることを指すものではありません。
帳簿の隠蔽や改ざん、架空経費の計上、売上の除外など、意図的に税額を減らそうとする行為が問題になります。
このようなケースでは、追徴税額が大きくなるだけでなく、重加算税といった重いペナルティが課されることがあります。
重要なのは、「間違えた」かどうかではなく、「意図があったかどうか」です。
ミスや認識違いは珍しくない
一方で、税務調査で指摘される内容のすべてが不正とは限りません。
制度の理解不足や計算ミス、判断の誤りなど、悪意のない申告誤りも多く見られます。
例えば、
・経費になるかどうかの判断を誤った
・消費税の区分処理を間違えた
・制度改正に対応しきれなかった
といったケースは、修正申告で対応することが一般的です。
AIは「意図」を判断しているわけではない
ここで誤解しやすいのが、AIが不正かどうかを直接判断しているわけではない、という点です。
AIが見ているのは、あくまでデータ上のパターンです。
過去の不正事例と似た数字の動きや、説明のつきにくい構造があるかどうかを判定しています。
そのため、本人に不正の意図がなくても、データ上の違和感が大きい場合には、調査の必要度が高いと判断されることがあります。
「説明できるかどうか」が分かれ目になる
不正とミスを分ける大きなポイントは、調査の場で合理的な説明ができるかどうかです。
数字の動きに対して、取引の実態や背景を説明できれば、不正と判断される可能性は低くなります。
逆に、
・帳簿と実態が合わない
・取引内容を説明できない
・資料が残っていない
といった場合には、不正を疑われやすくなります。
AI時代の税務調査では、「隠しているか」よりも、「説明が成り立つか」がより重視されていると言えます。
重加算税が課されるケース
不正と判断された場合、通常の追徴税に加えて重加算税が課されることがあります。
これは、単なるミスではなく、意図的な行為があったと認定された場合に適用されるものです。
AIの活用により、過去の不正事例と似た構造は見つけやすくなっていますが、最終的な判断は人が行います。
調査官は、数字だけでなく、対応状況や説明内容も含めて総合的に判断しています。
結論
AIが導入されたからといって、すべての申告誤りが不正として扱われるわけではありません。
不正とミスの線引きは、今も変わらず「意図」と「説明の合理性」にあります。
だからこそ、日頃から取引内容を記録し、数字の動きに説明がつく状態を保つことが重要です。
AI時代の税務リスク管理とは、不安を抱えることではなく、説明できる準備をしておくことだと言えるでしょう。
次回は、こうした前提を踏まえたうえで、中小企業や個人事業主はAI時代の税務調査とどう向き合えばよいのかを考えていきます。
参考
・税のしるべ「AIと調査官の知見を組み合わせ精度の高い調査を実施」(2025年12月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
