SNS時代に広がる「契約なきエンタメ仕事」のリスク Vチューバー受難から見える芸能マネジメントのほころび

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Vチューバー市場が急拡大する一方で、タレントを取り巻く契約や報酬管理の脆さが目立ち始めています。SNSのダイレクトメッセージで依頼が完結し、書面契約が存在しないまま仕事が進むケースは珍しくありません。案件の多様化と参入障壁の低下はチャンスであると同時に、タレント側のリスクを増幅させています。

事務所倒産による未払い、報酬条件の不透明さ、契約内容の記録不備など、これまで可視化されにくかった「新時代の芸能リスク」が鮮明になりつつあります。本稿では、現状の課題と、透明性向上に向けた取り組みを整理します。

1 SNSで完結する契約の危うさ

Vチューバーの仕事依頼は、SNSのDMやチャットアプリを通じて行われることが一般的です。問題は、こうしたメッセージが正式な契約書の代替になりにくいことです。

・報酬額や支払日が曖昧なまま進行
・チャットが編集可能で履歴証明が難しい
・通話で口頭了承が行われるケースもある
・録音なし、合意プロセスの不透明化

結果として、トラブルが発生しても双方で認識が食い違うケースが増えています。「手数料なしと言われたのに請求された」「グッズの仕様が事前説明と違う」といった声がSNS上でも多く見られます。

市場が急拡大する中で、契約の不備が一度生じると損失規模が大きくなる点も無視できません。矢野経済研究所は2025年度のVチューバー市場を1260億円と見込んでおり、4年間で4倍の成長です。この伸びは、契約管理の制度不備が“業界のボトルネック”となる可能性を示唆しています。


2 事務所側にも深刻な統治リスク

新興のVチューバー事務所は、急成長と運営未成熟のギャップから経営破綻が相次いでいます。

2025年には米国発の事務所VShojoが事業停止を発表し、日本のLinkUpも倒産手続きの準備に入りました。倒産に伴い、以下のような問題が浮き彫りになりました。

・経理が滞り売上が開示されない
・売上に基づく請求方式のため未払い額が不明
・タレントが自身の受取金額を把握できない

収益管理と契約管理が一体化していない構造は、タレントにとって致命的なリスクとなります。事務所に属することで得られるはずの「安心感」が十分に提供されていない現状です。


3 芸能業界全体に存在する「契約なき実態」

Vチューバーだけでなく、日本の芸能業界全体で契約の不備は続いています。

公正取引委員会の調査では
・「すべて書面契約」…58%
・「すべて口頭」…26%

長年続く慣行の中で、契約書の必要性を訴えても作成されない、説明なく契約が進むなど、実演家側の不安が解消されないケースも少なくありません。

デジタル化が進むエンタメ市場において、契約が紙からデータに移ることは自然な流れですが、形式だけでなく「内容の透明性」「履歴の証拠性」こそが重要であると言えます。


4 透明性を高める取り組み

業界全体の信頼を取り戻すために、明確な統治体制を構築する企業も現れています。

STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ問題を受けて設立)は、創業時から透明性を最重視しています。

・出演番組ごとの報酬内訳をタレントに明細として提供
・事務所取り分とタレント取り分を明記
・ハラスメント通報窓口の整備(社内・社外)
・未成年・若年タレントへの安全教育
・性的同意やプライベートゾーンに関する啓発
・スタッフ向け「リスペクトトレーニング」を導入

こうした取り組みは、芸能事務所が“選ばれる存在”になるために欠かせないものです。透明性は単なる倫理的配慮にとどまらず、事務所のブランド価値を高め、タレントと企業の信頼関係を強化する重要な経営戦略でもあります。


5 テレビ局にも広がる安全配慮

テレビ局も出演者の安全性向上に取り組み始めています。

・性的シーンでのインティマシーコーディネーター導入
・撮影現場でのハラスメント防止トレーニング
・外部専門家を招いた研修

従来は「現場の空気」で処理されがちだったリスク領域に対し、安全で尊重しあえる環境を整える動きが始まっています。


結論

Vチューバー市場の急成長は、新しいタレント像と収益モデルを生み出す一方で、契約・報酬・経営管理といった基盤部分の脆弱さを浮き彫りにしています。SNSで簡単に仕事が始まり、チャットで条件合意が行われる便利さの裏には、トラブル時に保護されない危険性が潜んでいます。

今後求められるのは以下の三点です。

  1. 契約内容を可視化し、証跡を残す仕組みの徹底
  2. 事務所・企業・媒体のガバナンス強化
  3. タレント自身のリテラシー向上と相談窓口の整備

Vチューバーという新しいエンタメ産業が持続的に発展するためには、透明性と安全性が業界の共通基盤として確立されることが欠かせません。


出典

・日本経済新聞2025年12月1日朝刊「SNSで契約 Vチューバー受難」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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