政府・与党は、電気自動車(EV)に対して重量に応じた新たな税負担を求める案を検討しています。EVはガソリン車に比べてバッテリーが重いことから、道路への負荷が大きいという指摘があり、その分を税負担で調整する考え方です。一方で、EV普及を後押しする脱炭素政策との整合性をどう確保するかが大きな論点になっています。2026年度税制改正大綱の議論に向けて、議論が本格化しています。
EV重量課税案とは何か
今回浮上している案は、主に次の二つの税目で検討されています。
- 自動車税(種別割)の見直し
現在の自動車税は排気量が基準になっており、エンジンを持たないEVには最も低い税額が適用されています。ここに重量という新基準を加えることにより、EVの税額を増やす案が議論されています。 - 自動車重量税の見直し
車検時に支払う重量税でも、EVをより重く評価する仕組みが検討されています。バッテリーが大容量化し車両重量が増加した結果、道路の損傷に与える影響が無視できないとの考えが背景にあります。
いずれも、道路維持費を誰がどの程度負担するかという根本的な議論に関わる内容です。
なぜ「重量」が議論の軸なのか
EVは環境性能に優れる一方、次のような構造的な特徴があります。
- バッテリー搭載により車両が重くなる
一般的にEVは同クラスのガソリン車より100kg以上重い傾向があります。 - 重量が道路損傷の要因になる
道路舗装の負荷は重量の増加とともに高まるため、重い車の通行が多いほど補修コストがかさみます。
道路維持費の公平な負担という観点から、重量を税負担に反映すべきだとする意見が自民党税制調査会でも出ています。
しかし与党内は意見が割れる
議論は一枚岩ではありません。慎重派が指摘する主な論点は次の通りです。
- 脱炭素の流れに逆行する
政府はEV普及を後押ししてきました。ここで税負担を増やせば「EVを冷遇するメッセージ」になりかねないという懸念があります。 - 世界のEV支援政策との比較
欧米や中国はEV普及政策に力を入れており、日本が税負担を増やせば競争力の面で不利になる可能性があります。 - EV購入層への影響が大きい
EVは一般に車両価格が高く、重量税・自動車税の上乗せは家計負担の増加につながります。
税制調査会の小委員長も「重いから課税強化すべきという意見もあれば、EV普及の流れを逆行させるとの意見もあった」と述べ、調整の難しさを認めています。
関連する動き:環境性能割は「2年停止」方向
EV関連税制の議論は重量課税だけではありません。
- 購入時の環境性能割は2年間停止方向
自家用車購入時にかかる地方税である環境性能割について、政府・与党は2年間の停止を検討しています。
さらに党内には「停止ではなく廃止すべき」との意見もあり、こちらも議論が続いています。
EV減税(購入時)とEV増税(保有・重量)という、方向性の異なる議論が同時進行している点が今回の税制改正の難しさを象徴しています。
今後の焦点
2026年度税制改正大綱に向けた押さえるべき論点は以下の通りです。
- 脱炭素政策との整合性をどう取るか
重量課税を導入する場合、EV普及を阻害しない制度設計にする必要があります。 - 課税ベースを「排気量→重量」へどこまでシフトさせるか
長期的には、エンジンの有無や排気量ではなく、車両重量を基準にする方向へ動く可能性があります。 - 道路維持財源の確保方法の議論
EV化が進むとガソリン税収が減るため、将来的に道路財源をどう安定的に確保するかという大きなテーマの一環でもあります。 - 地方税収への影響
自動車税・重量税・環境性能割は地方財源でもあり、地方自治体の理解を得られる制度設計が求められます。
結論
EV重量課税の議論は、環境政策・自動車産業・地方財源・道路インフラ維持など、幅広い政策領域にまたがっています。ガソリン車中心の税体系を見直し、EV時代に対応した公平な負担のあり方を模索する動きが本格化しているといえます。一方で、EV普及への逆風にならないよう配慮する必要もあり、制度設計のバランスが極めて重要です。年末に向けた与党税調の議論が、今後の自動車税制全体の方向性を左右することになります。
参考
・日本経済新聞「EV重量に応じ税負担増 政府検討」(2025年12月7日)
・政府・与党 自動車関連税制に関する会合資料
・自民党税制調査会 議事内容(報道ベース)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

