AI選別が進む法人税調査の実態― 過去最高の追徴税額が示すもの ―

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

国税庁は令和6事務年度の法人税等の調査事績を公表しました。実地調査件数は減少した一方で、追徴税額は3407億円と過去最高を記録しています。背景には、AIやデータ分析を活用した調査対象の選別精度の向上があります。本稿では、今回の調査事績のポイントを整理したうえで、法人実務にどのような影響が及ぶのかを考察します。


実地調査は減少、追徴税額は過去最高

令和6事務年度における法人税・消費税の実地調査件数は5万4000件と、前年度比で7.4%減少しました。件数としては過去3番目に低い水準です。

一方、追徴税額は前年度比6.6%増の3407億円となり、過去最高を更新しました。調査1件当たりの追徴税額も634万2000円と高水準で、直近10年で2番目の水準に達しています。

この数字が示すのは、「調査の数を絞り、その分、的中率を高めている」という調査手法の変化です。


AI・データ分析による「狙い撃ち」の調査

国税庁は近年、AIを活用した予測モデルを本格的に導入しています。申告内容、過去の調査結果、外部情報などを分析し、不正の可能性が高い法人を事前に抽出したうえで調査対象を選定しています。

その結果、実地調査件数は減少しているものの、不正発見割合は23.5%と前年より上昇しました。調査の「効率化」が数字として明確に表れています。

これは裏を返せば、「選ばれて調査に入られた時点で、相当程度のリスクが見込まれている」ということでもあります。


不正所得は増加、巧妙化する手口

法人税の申告漏れ所得金額全体は減少していますが、不正所得金額は2980億円と増加しています。特に重加算税が課される事案が一定数存在している点は注目すべきです。

国税庁は従来から、消費税還付申告法人、海外取引法人、無申告法人を重点調査対象としていますが、今回公表された事例からも、その姿勢が明確に読み取れます。


消費税不正還付事案が示すリスク

東京国税局管内の事例では、電子教材を保存したUSBを海外に輸出したとして、多額の消費税還付申告が行われていました。しかし、実地調査の結果、輸出先法人に事業実態がなく、取引自体が架空であることが判明しました。

代表者が商品に関する知識を有していない点や、代金決済が行われていない点など、形式だけを整えた不正であることが見抜かれています。結果として、重加算税を含め約3億8000万円の追徴が課されています。

消費税還付は、形式要件だけでなく「実態」が厳しく確認される分野であることを改めて示す事例です。


CRS情報が突き崩す海外取引スキーム

大阪国税局管内の事例では、CRS(共通報告基準)情報を端緒として調査が行われました。軽課税国に設立された実態のない法人を介在させ、仕入単価を水増しすることで利益を海外口座にプールしていた事案です。

取引書類の作成や口座管理を代表者自身が行っていた点などから、形式的な法人分離が否認されています。海外取引においては、今後ますます国際的な情報連携を前提とした調査が進むことが予想されます。


簡易な接触の拡大と自主修正の重要性

今回の調査事績では、「簡易な接触」による見直し要請が8万5000件に達しています。これは実地調査とは異なり、申告内容に誤りが想定される法人に対して、自主的な修正を促すものです。

簡易な接触による追徴税額は265億円に上っており、軽視できない規模となっています。早期に誤りを修正することで、加算税の軽減や調査の深度を抑えられる可能性がある点は、実務上の重要なポイントです。


実務への示唆

今回の調査事績から読み取れる実務上の示唆は明確です。
第一に、AIによる選別が進む中で、申告内容の「不自然さ」は以前よりも容易に把握されるようになっています。
第二に、海外取引や消費税還付といった分野は、引き続き高リスク領域です。
第三に、簡易な接触の段階で適切に対応することが、将来的なリスク低減につながります。


結論

法人税調査は「数の時代」から「精度の時代」へと明確に移行しています。AIとデータ分析を背景に、調査対象は厳選され、追徴税額は過去最高水準に達しました。

企業側としては、形式的な帳簿整備にとどまらず、取引実態と整合した申告を行うことが不可欠です。調査はもはやランダムではありません。平時からのリスク管理こそが、最大の防御策となります。


参考

・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における法人税等の調査事績」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました