AI時代の法人税調査チェックリスト― 税務署はどこを見ているのか ―

税理士
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法人税調査は、AIとデータ分析の活用によって大きく変化しています。
調査件数は減少している一方で、追徴税額は過去最高水準に達しました。これは、調査対象が「効率的に絞り込まれている」ことを意味します。

本稿では、国税庁が公表した最新の調査事績を踏まえ、AI時代の法人税調査でチェックされやすいポイントを、チェックリスト形式で整理します。


① 売上・利益の動きに不自然さはないか

□ 売上が前年と比べて急増・急減していないか
□ 利益率が同業他社と比べて極端に低くないか
□ 売上は伸びているのに利益が出ていない理由を説明できるか

AIは、過去データや同業比較を通じて「違和感のある数字」を抽出します。
数字の変化そのものよりも、「説明できるかどうか」が重要です。


② 経費の内容と割合は妥当か

□ 売上規模に比して経費が過大になっていないか
□ 毎年ほぼ同額の経費が機械的に計上されていないか
□ 私的利用が混在する費用の按分は合理的か

経費は最も調査で指摘されやすい分野です。
AIは「経費率が高い法人」を優先的に抽出する傾向があります。


③ 消費税の処理に弱点はないか

□ 課税売上割合の計算は正しいか
□ 免税・課税の切替時の処理に漏れはないか
□ インボイス制度への対応は実態に合っているか

消費税は、法人税以上に金額インパクトが大きく、調査対象として重視されています。
特に還付が発生する申告は、AI選別の段階で注視されます。


④ 外注費・業務委託費の実態は明確か

□ 外注先の実在性・事業実態を説明できるか
□ 契約書や業務内容の記録が残っているか
□ 人件費の代替として不自然に計上されていないか

架空外注や名ばかり外注は、典型的な否認ポイントです。
AIは、外注費比率や取引先情報も分析対象としています。


⑤ 海外取引・海外資金の動きは説明できるか

□ 海外法人・海外口座との取引がないか
□ 海外取引の価格設定は合理的か
□ 実態のない海外法人を介在させていないか

CRS(共通報告基準)による情報連携が進み、海外取引は「見えない取引」ではなくなっています。
形式的なスキームは、AIと実地調査の組み合わせで把握されやすくなっています。


⑥ 役員・関連当事者との取引は適正か

□ 役員貸付金・借入金が常態化していないか
□ 関連会社との取引条件は第三者取引と比べて妥当か
□ 私的支出が会社経費に混在していないか

同族会社では、役員と法人の資金の混同が重点的に確認されます。


⑦ 帳簿・証憑は「説明できる形」で整っているか

□ 領収書・請求書の保存状況に問題はないか
□ 電子帳簿保存法への対応は中途半端になっていないか
□ 会計ソフトの数字を自社で把握しているか

AI時代でも、最後に判断するのは人です。
帳簿と実態が一致していなければ、説明は通りません。


⑧ 「簡易な接触」に備えているか

□ 税務署からの文書・電話に誰が対応するか決まっているか
□ 指摘されやすい論点を事前に把握しているか
□ 修正申告が必要な場合の判断基準を整理しているか

簡易な接触の段階で適切に対応できるかどうかが、
本格的な調査に進むかどうかの分かれ目になります。


結論

AI時代の法人税調査で問われているのは、
「うまく処理しているか」ではなく、
「説明できる申告になっているか」です。

チェックリストの項目に一つでも不安がある場合、
それは調査リスクではなく、改善ポイントです。

調査が来てから慌てるのではなく、
平時にこのチェックリストで点検することが、
最も実務的で現実的な調査対策と言えるでしょう。


参考

・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における法人税等の調査事績」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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