法人税申告において、「中小企業だから使える」と思い込んで適用されている特例は少なくありません。
しかし税務調査の現場では、形式上は中小企業であっても、制度上は対象外となるケースが数多く見られます。
第3回では、
- 中小企業向け特例が適用できない法人
- 特定同族会社の留保金課税
という、判定を一つ誤るだけで税額が大きく変わる論点を整理します。
中小企業向け特例の基本的な考え方
法人税法では、期末の資本金の額が1億円以下の普通法人について、さまざまな中小企業向け特例が設けられています。
代表的なものとしては、
- 年800万円以下の所得に対する軽減税率
- 欠損金の控除限度額の特例
- 交際費の定額控除
- 留保金課税の不適用
などが挙げられます。
しかし、資本金1億円以下であっても、すべての法人が対象になるわけではありません。
誤り① 100%子会社でも中小特例が使えると思い込んでいる
税務調査で非常に多いのが、
大法人の100%子会社が中小企業特例を適用しているケースです。
親会社の資本金が5億円以上である場合、
その法人に完全支配されている子会社は、たとえ資本金が1,000万円であっても、
中小企業向け特例の適用対象外となります。
形式的な資本金額だけで判断せず、
グループ全体の資本関係を確認することが不可欠です。
誤り② 複数の大法人による支配関係を見落としている
完全支配関係は、1社の親会社だけとは限りません。
- 複数の大法人に
- 発行済株式の3分の2以上を
- 保有されている場合
も、中小企業特例は適用できません。
株主構成が複雑な法人ほど、この判定漏れが起こりやすく、
税務調査では必ず株主名簿が確認されます。
中小企業特例が否認される影響
中小企業特例が否認されると、
単一の論点にとどまらず、次のような影響が連鎖的に生じます。
- 法人税率の軽減が使えない
- 欠損金控除の限度が変わる
- 交際費の損金算入額が減少する
- 留保金課税の対象になる
「一つの誤り」が、申告全体の再計算につながる点は、特に注意が必要です。
留保金課税の基本構造を整理する
留保金課税は、特定同族会社が内部留保を過度に積み上げることを防ぐための制度です。
適用対象は、株式会社等の「会社」に限定されており、すべての法人に適用されるわけではありません。
税務調査では、
- 対象法人かどうか
- 計算過程が正しいか
の両面からチェックされます。
誤り③ 医療法人に留保金課税を適用している
医療法人は、法人であっても会社には該当しません。
そのため、特定同族会社として留保金課税の対象になることはありません。
法人であることだけを理由に留保金課税を適用しているケースは、
制度の前提を誤っている典型例です。
誤り④ 大法人の子会社は留保金課税がないと思い込んでいる
一方で、
- 資本金1億円以下
- 大法人に完全支配されている
法人については、留保金課税の対象になる場合があります。
中小企業特例は使えないが、
留保金課税は適用される、
という逆転現象が起こる点は、実務上の重要ポイントです。
誤り⑤ 所得がゼロなら留保金課税はないと考えている
留保金課税は、所得金額ではなく留保金額を基準に計算されます。
受取配当の益金不算入や欠損金の控除により、
所得金額がゼロになっていても、
留保金があれば課税対象となります。
この点を理解せずに、計算自体を省略している申告も少なくありません。
誤り⑥ 配当情報の記載漏れ
留保金課税の計算では、
- 前期末配当等の額
- 当期末配当等の額
の記載が不可欠です。
株主資本等変動計算書との整合性が取れていない場合、
税務調査では必ず修正を求められます。
税務調査の視点から見た実務ポイント
中小企業特例と留保金課税は、
- 法人単体ではなく「支配関係」
- 数字ではなく「制度の前提」
を重視して判断されます。
資本金額だけで判断する申告は、
調査の初期段階で疑問を持たれやすい点を意識しておく必要があります。
結論
中小企業向け特例や留保金課税は、
「中小企業かどうか」「所得が出ているかどうか」
といった単純な基準では判断できません。
第3回では、
- 支配関係の判定
- 留保金課税の対象範囲
といった、実務で誤りやすい核心部分を整理しました。
次回は、受取配当・欠損金の繰越し・交際費をテーマに、
申告調整ミスが起こりやすい論点をまとめます。
参考
- 東京税理士会 研修資料
「誤りやすい事例等及び令和7年度法人税関係法令改正のポイント」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
