政府・与党は2026年度税制改正に向けて、人工知能(AI)・量子技術などの先端分野に取り組む企業を対象とした研究開発減税を大幅に強化する方向で調整しています。
これらは日本の成長戦略や経済安全保障を支える「国家戦略技術」と位置づけられる分野であり、国際競争が激しく、巨額の研究投資が不可欠です。
一方で既存の研究開発税制は企業規模によって使いやすさが異なる点や、投資インセンティブとして十分に機能していない点が指摘されています。今回の改革は、限られた財源の中でメリハリのある支援を実現する狙いがあります。
この記事では、新たな税制の枠組み、期待される効果、そして残された課題について整理します。
1 新設される「戦略技術領域型」研究開発税制とは
今回の税制改正の柱となるのが、研究開発税制に新たに加わる「戦略技術領域型」の創設です。
対象となるのは、政府が重点分野とする
・AI
・量子
・半導体
・バイオ
・核融合
・宇宙
など、将来の産業構造を左右する技術群が想定されています。
控除率は最大30〜40%とされ、現行制度の中でも高い優遇に分類されます。
これまで高い控除率が適用されてきた「オープンイノベーション型」(大学や研究機関との共同研究など)は最大30%でしたが、新区分はこれを上回る可能性があります。
2 なぜ先端技術への減税を拡充するのか
先端技術は研究段階から収益化までの期間が長く、民間企業が単独で投資判断を下しにくい特徴があります。
AIや量子は開発競争が世界規模で進み、欧米・中国ともに大規模な補助金や税制支援を打ち出しています。
研究開発は初期投資が重く、成果が見えるまでの期間も長いため、企業は短期収益が見えないと投資に消極的になりがちです。税制優遇を手厚くすることで、国際競争で後れを取らないよう「投資の底上げ」を狙うものです。
また、AI・量子などの基盤技術は他の産業への波及効果が大きく、単なる個別企業の利益にとどまりません。
製造業、金融、医療、物流、防災など多くの領域で社会インフラとして作用するため、国として育成する意義が大きいといえます。
3 既存制度は縮小へ
一方で、現行の研究開発税制は縮小・再設計されます。
特に「一般型」と呼ばれる大企業向け区分は、現在より厳しい適用条件になります。
・試験研究費を前年度より大きく増やさないと高い控除率が得られない
・企業の研究開発投資の増加を十分に促せていない
などの課題が背景にあります。
研究開発税制は租税特別措置(租特)の一つで、企業向けでは最大の減税規模(2023年度で約9500億円)を占めます。財源効率を重視する中で、重点投資先とメリハリをつける必要があることから、既存区分の見直しは不可避とされています。
4 赤字スタートアップが使いにくい構造
研究開発税制の根本的な課題として、法人税を納めていない企業(赤字企業)は税額控除が利用できないという点があります。
日本のAI・量子関連のスタートアップは、研究開発投資が重く赤字計上が続くケースが少なくありません。
こうした企業こそ支援が必要ですが、現行制度では実質的に恩恵を受けにくいという矛盾があります。
欧米では、赤字企業について
・税額控除の還付(キャッシュバック)
・翌年度以降への繰越期間を長期化
などの仕組みを用いる国もあります。
日本では租税特別措置の透明性と財源制約が課題となるため慎重な議論が求められますが、先端技術スタートアップを育てる観点からは制度設計の再検討も避けられません。
5 透明性と既得権の問題
研究開発税制により減税を受けた企業名や金額は公表されていません。
そのため「大企業への恩恵が大きく、成果が見えにくい」「既得権的に運用されている」といった批判が根強くあります。
租税特別措置の適正化は政府の大きな政策課題であり、今回の区分再編でも透明性向上が求められます。税制は「実際にどれだけ研究開発を後押ししたか」という効果検証が不可欠で、今後の評価指標を整備する必要があります。
6 旧暫定税率の廃止による財源との関係
ガソリン税や軽油引取税の旧暫定税率が見直される際、その代替財源として租税特別措置の縮減が候補に挙がっています。
研究開発税制は規模が大きいため、見直し対象の筆頭となりがちです。
今回の税制改正は、
・先端技術は手厚く支援
・広く薄い支援は縮小
という方向性で、財源の重点化が進むとみられます。
結論
AIや量子技術などの基盤技術を国家戦略として強化するため、研究開発税制の見直しが大きく動き始めています。
新設される戦略技術領域型は企業の投資判断を後押しし、国際競争力の確保に向けた重要な施策となります。
その一方で、赤字のスタートアップが使いづらい構造、税制の透明性の低さなど、課題は少なくありません。
税制優遇が真に研究開発を後押ししているかを検証する体制を整えながら、企業の規模を問わず技術革新を支える仕組みにアップデートしていくことが求められます。
AI・量子・半導体・バイオ・核融合といった重要分野は、次の時代の産業構造そのものを形づくる土台となります。今回の税制改正は、日本の研究開発投資を強化するための一歩として位置づけられます。
参考
・日本経済新聞「政府・与党、AI・量子研究の減税拡大」(2025年12月6日)
・政府税制調査会資料
・経済産業省「研究開発税制の概要」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

