働きながら介護する「ビジネスケアラー」の急増
団塊世代が後期高齢者となる2025年。介護が必要な高齢者は急増し、働きながら家族を介護する 「ビジネスケアラー」 は307万人に達すると推計されています。
仕事と介護を両立できずに離職すれば、本人のキャリアだけでなく、企業にとっても大きな損失。経済全体では約9兆円の損失が生じるといわれています。
この課題に対し、企業はどのように動いているのでしょうか。ここではいくつかの事例を紹介します。
はなまるの「ケアバル」 ― 気軽に悩みを話せる場
うどんチェーン「はなまる」が始めたのは、居酒屋で従業員同士が介護について語り合う「ケアバル」。
「親の通院にどう付き添う?」「上司にどこまで伝える?」――普段は職場で話しにくい悩みを共有する場です。
実際に参加した社員からは、
「不安な気持ちを吐き出せるのはありがたい」
という声が聞かれています。
ケアバルは、自治体の「ケアカフェ」をモデルにした取り組み。介護を抱える従業員にとって、孤立を防ぐ大切な仕組みになっています。
ソフトバンクの「介護いどばた会議」 ― デジタルを活用した社内コミュニティ
通信大手ソフトバンクは、オンラインで介護の相談や情報交換ができる「介護いどばた会議」を導入しました。社員同士がチャットで集まり、気軽に相談し合えるのが特徴です。
さらに、介護の専門家に相談できるオンライン窓口も設けました。
2024年度からは「介護家族と同居する社員」を対象に、新幹線通勤のエリアを拡大するなど、通勤環境面での支援も広げています。
👉 ポイントは「デジタルの力で支援を社内に組み込んでいること」。時間や場所の制約を超えて支え合える仕組みが、従業員の安心につながっています。
経済産業省の「介護両立支援ハブ」実証事業
大企業だけでなく、中小企業の従業員を支える仕組みも動き出しています。経産省が進める「介護両立支援ハブ」は、複数の企業で共用できる相談窓口やセミナーを提供する仕組みです。
中小企業は人員や予算の制約から、社内で独自の介護支援体制を整えるのは難しいケースが多いのが実情。そこで、地域単位で支援を「共同利用」できるようにし、従業員が安心して相談できる環境を整えています。
保険外サービスと企業支援 ― 新しい流れ
介護保険制度の限界を補うため、保険外サービスの活用も広がっています。
- 見守りや家事支援を依頼できるサービス
利用者の7割がビジネスケアラー、平均利用額は月4万円程度。 - 旅行中の介助を担う「トラベルヘルパー」
車いすの家族を連れて旅行を実現する例も。
ただし、これらは利用に一定の経済力が必要です。そこで注目されるのが、 企業が福利厚生として費用の一部を補助する動き。これが広がれば、従業員にとっては大きな支えとなり、同時に新しい介護サービス市場を育てるきっかけにもなります。
まとめ ― 企業の支援は「投資」である
ビジネスケアラーへの支援は、単なる福利厚生にとどまりません。
従業員が安心して働き続けられる環境を整えることは、 人材流出を防ぎ、生産性を維持するための投資 です。
- ケアバルのように「気持ちを共有できる場」をつくる
- いどばた会議のように「デジタルで相談できる仕組み」を用意する
- 公的制度と連携し、中小企業も巻き込む
こうした取り組みは、これからの企業に求められる「介護との両立支援」のスタンダードになっていくでしょう。
👉 あなたの職場では、どんな仕組みがあるでしょうか?
👉 まだないなら、こうした事例を紹介しながら「社内での検討」を働きかけてみるのも第一歩かもしれません。
👉参考:日本経済新聞(2025年9月20日付 夕刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
