税務調査が進み、調査官から指摘を受け始めると、
多くの人が次の二択で悩みます。
- 言われたとおり修正申告をするべきか
- それとも、納得できない点は争うべきか
しかし、税務調査は「全部認める」か「全部争う」かの二択ではありません。
実務上は、
争うべき論点と、早めに引いた方がよい論点を見極めること
が、結果を大きく左右します。
本稿では、税務調査において「どこで踏みとどまり、どこで引くべきか」を判断するための視点を整理します。
税務調査は「白黒」ではなく「濃淡」で決まる
まず前提として、税務調査の多くは、
- 明確な違反
- 完全な適法
のどちらかに割り切れるものではありません。
実際には、
- グレーだが説明可能
- グレーで説明が弱い
- ほぼ黒に近い
といった濃淡のある論点が並びます。
この濃淡を見誤ると、
- 不利なところで無理に争う
- 有利なところまで簡単に手放す
という結果になりがちです。
争うべき論点の特徴
税務調査で争う価値がある論点には、共通する特徴があります。
① 事実関係に争いがある
調査官の認定している事実が、
- 実際とは違う
- 一部しか見ていない
という場合は、争う余地があります。
税務判断は、事実認定が前提です。
事実が違えば、結論も変わります。
② 法令・通達の解釈が一義的でない
税務は、必ずしも条文どおりに機械的に決まるものではありません。
- 解釈が分かれる
- 通達の当てはめが微妙
といった論点では、
一概に「違反」とは言い切れない余地
があります。
このような場合は、主張を整理して説明する価値があります。
③ 金額が大きく、波及が広い
外注費否認や給与認定のように、
- 本税が大きい
- 源泉税・消費税まで連鎖する
論点は、簡単に引くべきではありません。
仮に一部でも認められれば、
修正額が大きく変わる可能性があります。
④ 証憑・説明材料がそろっている
- 契約書
- メモ
- 業務の実態説明
など、説明できる材料がそろっている論点は、争う価値があります。
逆に、説明材料がない論点は、後述のとおり慎重な判断が必要です。
引くべき論点の特徴
一方で、実務上は「ここは引いた方がよい」論点も確実に存在します。
① 事実関係を覆せない
- 証憑がない
- 記憶も曖昧
という場合、どれだけ理屈を並べても説得力は出ません。
税務調査では、
主張より事実が優先
されます。
事実が弱い論点は、早めに引いた方が全体として有利になることがあります。
② 明確に通達・判例がある
調査官の指摘が、
- 明確な通達
- 定着した実務
に基づいている場合、争っても結果は変わりにくいのが現実です。
このような論点は、
無理に粘ると「全体の印象」を悪くするリスクがあります。
③ 金額が小さく、影響が限定的
数万円程度の経費否認など、
金額が小さく、他税目への波及もない論点は、
戦略的に引くという判断も重要です。
小さな論点で長引かせると、
本命の論点に集中できなくなります。
④ 説明すると不利な事実が出てくる
説明を深掘りすると、
- 私的利用
- 管理不足
といった、別の問題が表に出てくる場合があります。
このような論点は、
深追いしない方が安全なケースも少なくありません。
「争う」「引く」は感情では決めない
税務調査では、
- 悔しい
- 納得できない
という感情が先に立ちやすくなります。
しかし、
感情で争うと、
- 勝てない論点に固執する
- 有利な着地点を逃す
という結果になりがちです。
重要なのは、
最終的にいくらで、どこに着地するか
という視点です。
実務的な判断の進め方
実務では、次の順番で整理すると判断しやすくなります。
- 論点をすべて洗い出す
- 金額と波及範囲を整理する
- 事実関係と証憑の有無を確認する
- 争う論点と引く論点を仕分ける
この仕分けができると、
調査対応は一気に安定します。
修正申告は「交渉の結果」である
修正申告は、
「税務署に負けた結果」
ではありません。
- 争うべきところは争い
- 引くべきところは引いた
そのうえで、
全体として最も合理的な着地を選ぶ行為
です。
すべてを否認される前に、自ら整理して修正申告を行うことは、
実務上、非常に高度な判断でもあります。
結論
税務調査で重要なのは、
「争うか、引くか」そのものではなく、
どこで争い、どこで引くかを見極めることです。
- 事実が強い
- 解釈に幅がある
- 金額と波及が大きい
こうした論点は、安易に手放すべきではありません。
一方で、
- 事実が弱い
- 明確なルールがある
- 影響が小さい
論点は、戦略的に引くことで、全体を守ることができます。
税務調査対応とは、
正しさを主張する場であると同時に、
経営判断としてのリスク管理でもある。
その視点を持つことが、結果的に最も賢い対応につながります。
参考
・国税通則法
・法人税法・所得税法
・税のしるべ(税務調査関連記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
