税務調査で経費が否認されると聞くと、
「その経費が損金にならないだけ」
と考えてしまいがちです。
しかし実務では、経費否認は単発で終わらないことが少なくありません。
1つの判断をきっかけに、
- 消費税
- 源泉所得税
- 場合によっては社会保険
へと、次々に論点が波及していくケースがあります。
本稿では、税務調査の現場で実際に起こりやすい、
経費否認が連鎖する典型パターンを整理します。
なぜ経費否認は連鎖するのか
税務調査では、
- 勘定科目
- 税目
ごとに独立して見ているわけではありません。
1つの支出について、
「この支出の実態は何か」
という共通の事実認定を行い、そこから各税目に当てはめていきます。
そのため、
- 法人税(所得税)
- 消費税
- 源泉税
が同じ事実を前提に再評価されることになります。
これが、否認が連鎖する理由です。
連鎖パターン①
外注費否認 → 人件費認定 → 源泉税・消費税へ
最も典型的で、影響が大きいケースです。
第1段階:外注費の否認
税務調査で、
- 実態は指揮命令下で働いている
- 働き方が従業員に近い
と判断されると、外注費は否認されます。
第2段階:給与認定
外注費が否認されると、
「では、この支払いの実態は何か」
という議論になります。
その結果、
給与(人件費)として再認定
されるケースが多くあります。
第3段階:源泉所得税の追徴
給与と認定されると、
- 源泉所得税を徴収していない
- 年末調整もしていない
という問題が生じます。
この結果、過去にさかのぼって源泉税が追徴されます。
第4段階:消費税の修正
外注費であれば課税仕入れですが、
給与は消費税の課税対象外です。
そのため、
- 仕入税額控除の否認
- 消費税の追加納付
へと、さらに波及します。
連鎖パターン②
会議費否認 → 交際費認定 → 消費税の影響
一見すると影響が小さそうですが、積み重なると無視できません。
会議費として処理
- 会議費
- 課税仕入れ
として処理されていた支出が、
実態として会議性が乏しいと判断されると、
会議費が否認されます。
交際費として再評価
この場合、
- 交際費
- または私的支出
として再評価されます。
消費税への波及
交際費の内容によっては、
- 仕入税額控除の対象外
- 課税区分の修正
が必要になります。
特に、
- 社長個人の私的飲食
- 家族との飲食
と判断されると、消費税だけでなく所得認定の問題に発展することもあります。
連鎖パターン③
福利厚生費否認 → 給与認定 → 源泉税へ
福利厚生費も、連鎖が起きやすい項目です。
福利厚生費として処理
- 社内イベント
- 健康関連支出
などを福利厚生費として処理していた場合でも、
- 特定の人だけ
- 金額が過大
と判断されると否認されます。
給与認定
福利厚生費が否認されると、
「誰の利益になっているか」
が問われます。
その結果、
- 社長への給与
- 特定従業員への給与
として認定されるケースがあります。
源泉税の追徴
給与認定されれば、
当然、源泉所得税の問題が発生します。
ここでも、否認が別税目に連鎖します。
「経費が否認されただけ」と考えるのは危険
税務調査で本当に怖いのは、
- 数万円の経費否認
そのものではありません。
- 税目がまたがる
- 過去にさかのぼる
- ペナルティが重なる
という点に、実務上のリスクがあります。
特に、
- 外注費
- 人件費
- 福利厚生費
といった「人に関する経費」は、
連鎖が起きやすい典型分野です。
連鎖を防ぐための実務上の視点
連鎖を防ぐ最大のポイントは、
最初の区分判断を無理に攻めないことです。
- 外注か微妙なら人件費寄りで考える
- 福利厚生費に寄せすぎない
- 会議費・交際費の実態を丁寧に整理する
「少し有利になるかもしれない処理」より、
「説明できる処理」を優先することが、結果的に最大の防御になります。
結論
経費否認は、単なる損金不算入では終わりません。
実態認定を起点として、
消費税・源泉税へと連鎖的に波及する
可能性があります。
税務調査で重要なのは、
- どの経費か
- いくらか
ではなく、
その支出の実態をどう説明できるかです。
経費処理は、節税の工夫ではなく、
「将来の税務調査に耐える整理」
として考えることが、ひとり社長・小規模事業者にとって最も現実的な対応といえるでしょう。
参考
・法人税法(損金不算入・給与認定関係)
・所得税法(源泉徴収関係)
・消費税法(課税仕入れ・仕入税額控除関係)
・税のしるべ(税務調査関連記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
