交際費1万円基準は今後どう変わるのか― 令和9年度改正に向けた論点整理 ―

税理士
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交際費課税における「1人当たり1万円以下の飲食費は損金算入可」という基準は、令和6年度税制改正で導入されました。
実務の現場では、5,000円基準時代に比べて使いやすくなったという声が多く聞かれます。

一方で、令和8年度与党税制改正大綱では、この1万円基準を含む交際費課税全体について、令和9年度改正で見直しを検討すると明記されました。
本稿では、「1万円基準」が今後どう扱われる可能性があるのかを、制度の趣旨と政策背景から整理します。

交際費課税の本来の趣旨

交際費課税は、単に企業活動を縛るための制度ではありません。
その根底には、次のような考え方があります。

  • 事業遂行と直接関係のない冗費・濫費を抑制する
  • 私的消費との線引きを明確にする
  • 税負担の公平性を確保する

つまり、問題とされているのは「取引先との通常の会議や情報交換」ではなく、事業との関連性が薄い支出です。
この考え方自体は、今後も大きく変わらないと考えられます。

なぜ「1万円」に引き上げられたのか

5,000円基準が長年使われてきた一方で、物価上昇や飲食費の実態との乖離は以前から指摘されていました。

特に、

  • 都市部での会議費
  • 複数人での打合せ
  • 働き方改革による社外ミーティングの増加

といった事情を考えると、5,000円では「通常の会議費」まで交際費扱いになってしまう場面が少なくありませんでした。

このため、実態に即した線引きとして、1万円基準への引き上げが行われたと整理できます。
重要なのは、これは「交際費課税の緩和」ではなく、「区分の見直し」であった点です。

なぜ再び見直しが検討されるのか

一度引き上げた基準を、なぜ再び見直すのか。
その理由は、令和8年度大綱の表現から読み取ることができます。

大綱では、

  • 冗費・濫費の抑制という趣旨
  • 会議費の実態
  • 設備投資や賃上げを強く推進する政策との関係

これらを踏まえた検討が必要だとされています。

つまり、1万円基準が「適切に機能しているか」を検証したうえで、

  • 緩すぎないか
  • 逆に実務を不必要に縛っていないか

を改めて確認するという位置づけです。

今後想定される見直しの方向性

現時点で結論は出ていませんが、考えられる方向性はいくつかあります。

① 金額基準は維持し、運用面を整理

最も現実的なのは、1万円基準自体は維持しつつ、

  • 会議費として認められる範囲
  • 記録・証憑の要件

といった運用面を明確化する方向です。
これは、制度の安定性を重視する考え方といえます。

② 金額以外の基準を組み合わせる

金額だけで線引きをするのではなく、

  • 参加者の属性
  • 会議の目的
  • 頻度

といった要素を考慮する考え方です。
ただし、実務負担が増えるため、慎重な検討が必要になります。

③ 再度の金額調整

可能性は高くありませんが、物価動向次第では、

  • 基準額の再調整
  • 時限措置としての位置づけ

といった整理が行われる余地も否定できません。

企業実務で今から意識すべき点

重要なのは、「1万円以下なら何でも大丈夫」と考えないことです。
今後の見直しを見据えると、次の点がより重視される可能性があります。

  • 会議の目的が明確か
  • 業務関連性を説明できるか
  • 記録が形式的になっていないか

1万円基準は、交際費課税を免れるための免罪符ではなく、実態判断を前提とした目安にすぎません。

結論

交際費の1万円基準は、今後すぐに廃止されるものではありません。しかし、令和9年度税制改正に向けて、「この基準が妥当かどうか」は確実に検証対象となります。

交際費課税は、企業行動と税制のバランスを象徴する制度です。
今後は、金額そのものよりも、「なぜその支出が必要だったのか」が、より問われる方向へ進んでいくと考えられます。

参考

・税のしるべ「8年度与党大綱で示された今後の税制改正の方向性、交際費課税は9年度改正で見直しを検討」
・令和8年度 与党税制改正大綱
・法人税法(交際費等の損金不算入関係)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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