日銀ETFは「国の埋蔵金」なのか― 売却を巡る政治・財政・中銀の緊張関係 ―

政策

日本銀行が保有する上場投資信託(ETF)の売却が始まりました。
保有残高は時価で約95兆円に達し、含み益や分配金収入の大きさから、これまでもたびたび「国の埋蔵金」と呼ばれてきました。

とりわけ最近は、消費税減税の財源や政府系ファンド構想と結びつき、日銀ETFをどう活用すべきかという議論が再燃しています。
本稿では、日銀ETF売却を巡る論点を整理し、「誰のための資産なのか」という視点から考えてみます。

日銀ETFはなぜ「埋蔵金」と見なされるのか

日銀は金融緩和政策の一環として、長年にわたりETFを市場から買い入れてきました。その結果、2025年時点で含み益は約46兆円、分配金収入は年間1兆円超に達しています。

この巨額資産は、
・市場で売却すれば現金化できる
・分配金が安定的に発生する
という特徴を持つため、政治の側からは「財源候補」として注目されやすい存在です。

過去には、
・日銀が保有するETFを政府が引き取る案
・政府系ファンドの運用資産に組み込む構想
なども浮上しましたが、いずれも実現には至っていません。

売却方針と政治介入リスク

日銀は最終的に、市場で時間をかけて売却する方針を選択しました。
売却期間は100年以上とされ、急激な市場混乱を避けることが主な理由です。

ただし、この長期戦略には弱点もあります。
売却完了までの間、政治情勢が変われば、
「売却を止めるべきだ」
「もっと活用すべきだ」
といった介入圧力が再び強まる可能性があるためです。

ETFの扱いは、金融政策とは直接関係しないように見えて、実は中央銀行の独立性と深く結びついています。

日銀がETFを手放しにくい理由

日銀自身にも、ETFを急いで手放せない事情があります。
利上げが進んだ結果、保有国債の利息収入より、金融機関の当座預金に支払う利払い費が上回る「逆ざや」が発生しました。

2025年には、ETFの分配金が約1.5兆円に達し、これが日銀の剰余金を支える重要な収入源となっています。
仮にETFがなければ、日銀の利益は大幅に減少していたと考えられます。

日銀は赤字や債務超過でも金融政策運営に支障はないとしていますが、財務悪化が市場の不安を招けば、円の信認低下や急激な円安につながるリスクも否定できません。

財務省と政府の思惑

財務省にとっても、日銀ETFは無関係ではありません。
日銀が生み出す剰余金は国庫納付金として政府に納められ、近年は年間2兆円規模に達しています。

ETFをゆっくり売却すれば、分配金収入は当面維持され、国庫納付金も安定します。
積極財政を掲げる政権にとって、税外収入の重要性は今後さらに高まると見られます。

その意味で、
・政治は活用したい
・財務省は安定収入を保ちたい
・日銀は独立性を守りたい
という三者の思惑が交錯している状況です。

結論

日銀ETFは確かに巨額で、表面的には「使えるお金」に見えます。
しかし、その本質は金融政策の副産物であり、単純な財源ではありません。

短期的な財政目的で活用すれば、中央銀行の独立性や市場の信認を損なうリスクがあります。
一方で、売却を急げば、日銀自身の財務や市場安定に影響を及ぼす可能性もあります。

日銀ETFの「受益者」は誰なのか。
この問いに明確な答えを出さないまま議論が進めば、政治・財政・金融のバランスは崩れかねません。
出口局面に入った今こそ、冷静で長期的な視点が求められています。

参考

・日本経済新聞
「難路の日銀ETF売却(下)くすぶる『国の埋蔵金』論 利用価値、政官の思惑交錯」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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