消費税減税と並んで、今回の「国民会議」で再び議論の俎上に載るとされているのが「給付付き税額控除」です。
この制度は決して新しい発想ではなく、実は10年以上前から日本でも繰り返し検討されてきました。
それにもかかわらず、これまで実現には至っていません。
なぜ給付付き税額控除は、必要性が指摘されながらも制度化が難航してきたのでしょうか。
過去の議論を振り返りながら、その理由を整理します。
給付付き税額控除とはどのような制度か
給付付き税額控除は、所得税額から一定額を差し引く「税額控除」と、税額控除しきれない部分を「給付」として支給する仕組みです。
所得が低い人ほど支援が手厚くなり、一定以上の所得がある人には給付が行われない設計が想定されます。
消費税のように逆進性が指摘されやすい税制の弱点を補完し、所得再分配機能を強める制度として位置づけられてきました。
理論的には合理性が高い制度とされています。
過去にも導入が検討された経緯
給付付き税額控除は、2012~2013年に設置された社会保障制度改革に関する国民会議でも、重要な検討テーマの一つでした。
当時は、消費税率の引上げと社会保障改革を一体で進める「社会保障と税の一体改革」が掲げられており、その中で低所得者対策として注目されました。
しかし、最終的には制度導入には至りませんでした。
その理由は一つではなく、いくつもの実務的・制度的な壁が重なっていたためです。
理由① 所得や資産の把握が難しかった
最大の障壁とされてきたのが、所得や資産を正確に把握することの難しさです。
給付付き税額控除は、誰にどれだけ給付するかを判断するため、個人ごとの所得状況を精緻に把握する必要があります。
ところが、日本では当時、所得情報が行政機関間で十分に共有されていませんでした。
特に、給与所得以外の収入や、複数の収入源を持つ人の把握には限界がありました。
制度の公平性を担保しようとすればするほど、実務が複雑になり、運用リスクが高まるというジレンマがありました。
理由② 税と給付を一体で運用する難しさ
給付付き税額控除は、税制と社会保障をまたぐ制度です。
税務当局と福祉部門の連携が不可欠になります。
しかし、日本の行政制度は、税と給付が縦割りで設計されてきました。
税は税務署、給付は自治体や社会保障部門という役割分担が明確で、一体的な運用を前提とした制度設計が難しかったのです。
新たな仕組みを導入すれば、事務コストの増加や、制度移行期の混乱も避けられません。
この点が、政治的な判断を鈍らせる要因になってきました。
理由③ 「不正受給」への懸念
給付が絡む制度で必ず問題になるのが、不正受給のリスクです。
所得の申告漏れや意図的な操作によって、本来対象でない人が給付を受ける可能性が指摘されてきました。
特に、給付付き税額控除は「税の計算」と「給付の支給」を組み合わせるため、仕組みが複雑になりがちです。
制度が複雑になるほど、誤りや悪用の余地も広がります。
不正を防ぐために厳格なチェック体制を整えれば、今度は事務負担が増えるという問題もあります。
理由④ 国民への説明が難しい
給付付き税額控除は、仕組みを一言で説明しにくい制度です。
「減税」や「給付」と比べると、直感的に理解しづらい側面があります。
政治の場では、分かりやすさも重要な要素になります。
制度の趣旨を丁寧に説明し、国民の理解を得るには時間がかかると判断されてきました。
結果として、即効性や分かりやすさのある給付金や軽減税率といった手法が優先されてきた面があります。
今回は何が違うのか
今回、再び給付付き税額控除が議論されている背景には、過去とは異なる環境変化があります。
マイナンバー制度の整備や、行政手続のデジタル化が進み、所得情報の把握や連携は以前より現実的になっています。
また、物価高が長期化する中で、単発の給付ではなく、恒常的な所得再分配の仕組みを求める声も強まっています。
それでもなお、制度設計の難しさが解消されたわけではありません。
結論
給付付き税額控除が難航してきた理由は、「考え方が悪かった」からではありません。
むしろ、理論的には合理的でありながら、実務と制度の壁が高かったことが最大の要因です。
今回の国民会議では、過去に乗り越えられなかった課題に、どこまで具体的な解決策を示せるかが問われます。
給付付き税額控除は、消費税減税の「代替案」ではなく、税と社会保障をどう組み直すかという本質的なテーマです。
議論の行方次第では、日本の所得再分配のあり方そのものが変わる可能性があります。
参考
・日本経済新聞
「国民会議 減税や控除、重要政策を議論」
・日本経済新聞
「社会保障と税の一体改革」に関する過去報道
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
