2026年度税制改正大綱を読む⑩ 今回の改正が示す「これからの税制」の方向性 ― 全体総括 ―

税理士
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これまで全9回にわたり、2026年度税制改正大綱の主な内容をテーマ別に整理してきました。
所得税、住宅、資産形成、不動産、暗号資産、企業向け税制、自動車関係諸税と、多岐にわたる改正が盛り込まれていますが、個々の制度を並べて見るだけでは、今回の改正の本質は見えてきません。

最終回となる本稿では、2026年度税制改正大綱全体を俯瞰し、今回の改正が示している「税制の方向性」を整理します。

物価上昇を前提とした税制への転換

今回の改正で最も象徴的なのは、物価上昇を一時的な現象ではなく、前提条件として受け止めている点です。
基礎控除や給与所得控除の見直し、課税最低限178万円への引上げ、物価連動を意識した仕組みの導入は、その表れといえます。

これまでの税制は、名目所得が増えれば自動的に税負担が増える構造でした。
今回の改正は、物価上昇による実質的な負担増を、制度面でどう調整するかという課題に、初めて体系的に向き合ったものといえます。

「一律」から「行動誘導」へ

住宅ローン控除、不動産税制、設備投資や研究開発税制、賃上げ促進税制を通して共通しているのは、
「条件を満たせば誰でも同じ」
という発想から、
「どのような行動を取るか」
によって税制上の扱いを変える方向へと進んでいる点です。

省エネ性能の高い住宅、成長につながる投資、継続的な賃上げ、社会的な課題に対応する事業。
税制は、これらを後押しする政策手段として、より明確に位置づけられています。

資産形成と課税の整理

NISAの見直しや暗号資産課税の転換は、資産形成をめぐる税制の整理を象徴しています。
NISAでは、未成年者向け制度を新設し、資産形成を世代を超えたテーマとして捉え直しています。

一方、暗号資産については、分離課税と損失繰越を導入することで、金融商品に近い位置づけへと整理しました。
自由度の高さと引き換えに、課税の明確化と申告の重要性が一段と高まっています。

地方税と国税の役割の再確認

自動車関係諸税や不動産税制の見直しからは、地方税財源としての役割を意識した調整が読み取れます。
軽油引取税の当分の間税率の廃止など、負担軽減が図られる一方で、地方財政への影響にも配慮した設計がなされています。

国税と地方税の役割分担を維持しつつ、時代に合わなくなった制度を整理していく姿勢が、今回の改正全体に共通しています。

税制は「後から確認するもの」ではなくなっている

今回の改正を通して強く感じられるのは、税制が「結果に対して後から適用されるもの」ではなく、
「行動を選ぶ前に織り込む前提条件」になりつつあるという点です。

住宅を取得するか、売却するか。
投資を行うか、どの制度を使うか。
事業としてどの分野に投資するか。

これらの判断において、税制はますます重要な要素となっています。


結論

2026年度税制改正大綱は、単年度の調整にとどまらず、今後の税制の方向性を明確に示す内容となっています。
物価上昇を前提とし、行動誘導を重視し、資産形成と成長投資を整理する。
税制が、社会や経済の変化にどう対応していくのかが、具体的な形で表れています。

制度は今後も見直され続けますが、今回の改正は一つの転換点といえるでしょう。
税制を「難しい制度」として遠ざけるのではなく、生活や判断に関わる前提条件として捉える視点が、これまで以上に重要になっています。


参考

・財務省「令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日 閣議決定)」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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