消費税減税は「市場への回答」になり得るのか――税と社会保障を一体で考える視点から

政策

物価高への対応策として、衆院選では多くの政党が消費税減税を掲げました。家計の負担感が強まる中、消費税率を引き下げるという発想は直感的で分かりやすいものです。しかし、市場はこの動きを必ずしも好意的には受け止めませんでした。長期金利の上昇に見られるように、消費税減税は「財政赤字拡大のシグナル」として評価された側面があります。
本稿では、欧州の付加価値税(VAT)減税の経験を参照しつつ、日本における消費税減税の課題と、真に求められる「市場への回答」について整理します。

欧州のVAT減税は何が違ったのか

消費税に相当するVATは、欧州では日本より早く導入・定着してきました。英国はリーマン・ショック後、ドイツは新型コロナウイルス禍において、いずれも景気刺激策としてVAT税率を時限的に引き下げています。
ただし、これらの政策は単なる「減税」ではありませんでした。英国では基礎食料品が恒久的にゼロ税率とされており、VAT税率の上下が生活必需品価格に与える影響は限定的でした。また、欧州では税制と給付制度、社会保険制度を一体で調整するという考え方が広く共有されています。VAT減税は、給付や補助金と並ぶ「生活支援策の一つ」として位置づけられていたのです。

日本で消費税減税が抱える構造的な問題

日本に同じ枠組みを当てはめることは容易ではありません。第一に、日本の消費税は社会保障目的税として設計されています。税率引き下げは、そのまま年金・医療・介護といった社会保障財源の縮小を意味します。
第二に、時限的減税であっても、元に戻す局面では「増税」と受け止められやすく、結果として減税が恒久化するリスクがあります。これは過去の税制議論でも繰り返し指摘されてきました。
第三に、消費税減税は一律措置であるため、支援が本当に必要な低所得層に対して、必ずしも厚く届くとは限りません。高所得層ほど消費額が大きく、減税の恩恵も相対的に大きくなるという逆進性の問題も残ります。

市場が見ているのは「減税」そのものではない

消費税減税を巡る議論で重要なのは、市場が何を評価しているかです。今回、市場が示した反応は、減税そのものへの拒否というよりも、「財政運営の持続性がどう担保されるのかが見えない」という点への懸念だったと考えられます。
欧州の事例では、VAT減税が国債発行で賄われる場合でも、給付制度や社会保障制度との組み合わせが明示されていました。どの層を、どの程度、どの期間支援し、その後どのように平常時に戻すのか。その道筋が示されていたからこそ、市場も政策全体を評価できたのです。

給付付き税額控除という「一体型」の選択肢

日本でも近年、給付付き税額控除への関心が高まっています。この制度は、税と社会保障を切り離さずに設計する点に特徴があります。所得税を通じて負担を調整しつつ、税額控除で取り切れない部分は給付として還元する仕組みです。
もし消費税減税を検討するのであれば、単発の税率引き下げではなく、給付付き税額控除などと組み合わせ、税と社会保障を一体として再設計する必要があります。その全体像を同時に示すことこそが、国民に対する説明責任であり、市場への重要なメッセージとなります。

結論

消費税減税は、それ自体が善か悪かで評価される政策ではありません。問題は、生活支援と財政運営の持続性をどう両立させるのか、その設計図が示されているかどうかです。
欧州の経験が示しているのは、減税の有無以上に、「税と社会保障を一体でどう運用するのか」という視点の重要性です。日本においても、消費税減税を市場への回答とするためには、制度全体を見通した構築と、その明示が不可欠だと言えるでしょう。

参考

・日本経済新聞「消費税減税、市場への回答」(2026年1月30日、夕刊・十字路)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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