令和8年度税制改正大綱では、個人所得課税について幅広い見直しが盛り込まれました。
物価上昇を背景に、基礎控除や給与所得控除の引き上げなど、働く人の負担軽減を意識した改正が続く一方で、高額所得者に対しては負担の適正化を目的とした引き締め策も打ち出されています。
本稿では、個人所得課税に関する改正の「全体像の整理」を行います。
1.「103万円の壁」引き上げと課税最低限の見直し
今回の改正で最も注目されているのが、いわゆる「103万円の壁」への対応です。
令和7年度税制改正からの積み残し課題となっていたこの問題について、基礎控除と給与所得控除の引き上げにより、所得税の課税最低限が大きく見直されました。
具体的には、所得税の課税最低限は、令和7年分の水準より18万円高い178万円となります。また、個人住民税所得割の課税最低限についても、令和8年度分より9万円引き上げられ、119万円とされました。
これにより、パート・アルバイトなどで働く人の就業調整の動機を和らげる効果が期待されています。
2.基礎控除等を物価連動で見直す新たな仕組み
今回の改正では、単なる一時的な引き上げにとどまらず、制度面での変更も行われています。
基礎控除および給与所得控除の最低保障額について、物価に連動して引き上げる仕組みが創設され、2年ごとに見直されることとなりました。
これまで控除額は長期間据え置かれることが多く、実質的な増税との指摘もありました。今回の仕組みは、物価上昇局面において税負担が知らないうちに重くなる事態を一定程度防ぐ狙いがあるといえます。
3.現物給付・通勤手当の非課税限度額の見直し
物価上昇への対応として、企業が従業員に提供する福利厚生についても見直しが行われます。
具体的には、企業の食事支給に係る所得税の非課税限度額や、マイカー通勤に係る通勤手当の非課税限度額が引き上げられます。
これらは日常生活に直結する支援であり、賃上げとあわせて実質的な手取りの下支えにつながる改正といえます。
4.超高額所得者への負担適正化の強化
一方で、高額所得者に対しては明確に引き締め方向の改正が行われます。
令和5年度税制改正で創設され、令和7年分から適用されている「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」について、内容が見直されました。
これまで、この措置による追加負担が生じる平均的な所得水準は30億円程度とされていましたが、今回の改正により、その水準は6億円程度まで引き下げられます。あわせて、適用税率も22.5%から30%へと引き上げられます。
超富裕層を対象とした措置ではありますが、税制全体として「応能負担」をより強く意識した改正と位置付けられます。
5.ふるさと納税の特例控除に上限設定
現行のふるさと納税制度では、個人住民税の特例控除額に上限が設けられていません。そのため、高額所得者ほど制度の恩恵を受けやすい構造となっていました。
今回の改正では、この特例控除額に193万円の上限が設定されます。目安としては、給与収入で1億円相当の人から対象となる水準です。
制度の趣旨である地域支援と、税負担の公平性とのバランスを見直す動きといえます。
6.暗号資産取引への分離課税導入
投資分野では、暗号資産取引に関する大きな転換点となる改正が盛り込まれました。
一定の暗号資産取引によって生じた所得について、分離課税を導入する方針が示されています。
これまで暗号資産による所得は原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となり、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達していました。分離課税が導入されれば、税率は所得税15%、個人住民税5%の合計20%となります。
税負担の明確化により、国内での暗号資産取引が活発化する可能性があります。
7.未成年者への投資機会拡大と教育資金贈与の終了
同じく投資分野では、つみたて投資枠の対象年齢が見直され、これまで対象外であった0~17歳も利用可能となります。非課税投資枠や運用管理の仕組みは18歳以上とは異なるものの、早期からの資産形成を後押しする制度改正といえます。
一方で、教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、制度の拡充状況や利用実態などを踏まえ、令和8年3月末をもって適用期限が終了することとなりました。
結論
令和8年度税制改正における個人所得課税は、物価上昇への対応として広く国民の負担を軽減する一方で、高額所得者にはより厳しい負担を求める構造が鮮明となっています。
基礎控除や給与所得控除の引き上げは、多くの人にとって身近な改正です。一方、ふるさと納税や超高額所得者課税、暗号資産課税などは、対象者は限定的ながら、税制の方向性を示す重要な改正といえます。
次回以降は、これらの改正項目について、それぞれの制度内容や実務への影響をより詳しく見ていきます。
参考
・税のしるべ 2026年1月26日号
・令和8年度税制改正大綱(個人所得課税関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
