円安是正で動き出した「日米連携」──レートチェックは何を意味するのか

政策

2026年1月下旬、為替市場は久しぶりに「意表を突かれる動き」を見せました。
米国当局による異例のレートチェックをきっかけに、ドル円相場は一時1ドル=153円台前半まで円高が進行しました。日米が円安是正に向けて連携したとの受け止めが広がり、市場心理は一気に変化しました。

もっとも、今回の動きは協調介入ではなく、あくまで準備段階にとどまっています。なぜ今、米国がレートチェックに踏み切ったのか。そして、この「日米連携」は円安是正の決定打となり得るのか。本稿では、記事内容を踏まえつつ、実務的・制度的な視点から整理します。

レートチェックとは何か

レートチェックとは、為替介入を担う当局が市場参加者に対して、実際の売値・買値を照会する行為を指します。単なる情報収集とは異なり、実際に注文を出す直前まで踏み込む点が特徴です。

取引を成立させれば為替介入となりますが、最終段階で取りやめることも可能です。このため、市場では「介入の準備段階」として強い警戒シグナルと受け止められます。口先介入よりも実効性が高く、短期的には相場を動かす力を持ちます。

今回注目すべき点は、これを米国側が行ったと受け止められている点です。日本側の対応ではなく、米国当局が動いたことが、市場に強いインパクトを与えました。

なぜ米国は動いたのか

背景には、単なる円安問題を超えた米国自身の事情があります。

第一に、物価への影響です。ドル安は米国の輸入物価を押し上げ、インフレ再燃リスクを高めます。中間選挙を控える米政権にとって、インフレの再燃は避けたい課題です。

第二に、日本の金利上昇が米国に波及した点です。高市政権の積極財政に対する警戒感から、日本では円売りと国債売りが連動しました。40年物国債利回りが4%に達するなど、長期金利の上昇は顕著でした。

この日本の国債売りが米国債市場にも伝播し、米長期金利が急上昇しました。米財務長官が日本からの波及効果に言及したことからも、米国が日本の金融・財政動向を無視できない局面に入っていることが分かります。

つまり、今回のレートチェックは「日本を助けるため」ではなく、「米国自身の金融安定を守るため」という側面が大きいと考えられます。

協調介入のハードルはなぜ高いのか

市場では「日米協調介入」への期待も一時的に高まりましたが、現実的なハードルは非常に高い状況です。

過去に協調介入が実施されたのは、1998年のアジア通貨危機や2011年の東日本大震災直後など、例外的な危機局面に限られています。1998年当時は、大手金融機関の破綻が相次ぎ、日本は深刻な金融危機に直面していました。

現在の円安局面は、確かに急激ではあるものの、G7が定める「過度な変動」と言えるほどの水準かというと議論があります。実際、直近数か月の円安幅は、過去の危機局面と比べると限定的です。

このため、G7合意の枠組みの中で、円安是正を目的とした協調介入に踏み切るには、政治的・制度的なハードルが依然として高いと言えます。

円安の根本原因はどこにあるのか

今回のレートチェックは短期的な円高をもたらしましたが、効果は一時的との見方が大勢です。その理由は、円安の根本原因が解消されていないためです。

最大の要因は、日米の実質金利差です。日本の政策金利は0.75%にとどまり、インフレ率を差し引くと実質金利は大幅なマイナスです。一方、米国は実質金利がプラス圏にあります。

この環境下では、資金がドルに流れやすい構造は変わりません。レートチェックや口先介入で時間を稼ぐことはできても、日銀が実質金利を引き上げられるかどうかが、中長期的な円相場の方向性を左右します。

結論

今回のレートチェックは、日米が為替と金利を通じて「同じ市場リスク」を共有し始めたことを示す象徴的な出来事でした。ただし、それは協調介入という強力な手段には直結していません。

今後の焦点は、日銀がどこまで金融政策の正常化を進められるか、そして財政運営への市場の信認をどう回復するかにあります。円安是正は、単なる為替操作ではなく、金融・財政・物価政策が複合的に問われる局面に入っています。

レートチェックは、その問題を市場に突き付ける「警告」に過ぎないと言えるでしょう。

参考

・日本経済新聞「円安是正で『日米連携』 レートチェック、市場の意表つく」
・日本経済新聞「レートチェック 為替介入の準備、相場照会」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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