令和8年度税制改正では、租税特別措置について、適用期限を待たずに廃止・縮減する動きが明確になりました。
これは、税制改正の「予測可能性」が低下していることを意味します。
これまで実務の現場では、「期限までは使える」「少なくとも数年は続く」という前提で、制度活用を織り込んだ判断が行われてきました。
しかし、今後はその前提自体が成り立たなくなる可能性があります。
本稿では、中小企業や個人が実務上、特に注意すべき「突然の廃止リスク」と、その備え方を整理します。
「期限がある=安心」ではなくなった
今回の税制改正で最も重要なポイントは、期限前廃止が現実のものとなったことです。
賃上げ促進税制の大企業向け措置は、適用期限を残したまま廃止されました。
これは、租税特別措置が「期限まで保証された制度」ではなく、「途中で見直される可能性がある制度」であることを明確に示しています。
実務では、期限管理だけでなく、制度そのものの存続リスクを常に意識する必要があります。
投資・契約を制度前提で組み立てない
中小企業の設備投資や人件費計画、個人の資産承継対策では、租税特別措置を前提に意思決定が行われることがあります。
例えば、
・税額控除があることを前提にした賃上げ計画
・非課税措置を前提にした生前贈与
・特例適用を見込んだ投資回収計画
これらは、制度が途中で廃止された場合、計画全体が崩れるリスクを抱えています。
税制は「補助的な要素」と位置づけ、制度がなくても成立するかを必ず検証する視点が欠かせません。
「適用できるはず」ではなく「いつまで使えるか」を確認する
租税特別措置には、法律上の適用期限とは別に、実務上の締切が存在する場合があります。
教育資金一括贈与の非課税措置では、金融機関側が申込期限を前倒しで設定する例が見られました。
実務では、
・法律上の期限
・政令・通達による取扱い
・金融機関・実務運用上の期限
これらを区別して確認する必要があります。
「制度は残っているのに使えなかった」という事態は、今後さらに増える可能性があります。
適用実績が少ない制度ほど要注意
租税特別措置の見直しでは、適用実績が僅少な制度が特に問題視されます。
利用者が少ない制度は、政策効果を説明しにくく、見直しの対象になりやすいためです。
中小企業や個人が「あまり知られていない特例」を使う場合には、
・なぜ利用者が少ないのか
・今後も存続する合理性があるのか
を一度立ち止まって考える必要があります。
「グレーな節税」は最も脆い
制度の趣旨から外れた利用や、いわゆる「節税目的が前面に出た使い方」は、制度廃止の引き金になりやすい要素です。
教育資金贈与の非課税措置が象徴するように、制度は「想定外の使われ方」をした時点で寿命が短くなります。
実務では、「通るかどうか」ではなく、「制度の趣旨に沿っているか」という視点を重視することが、結果的にリスク回避につながります。
税制改正情報を「決まってから」追わない
突然の廃止リスクに備えるためには、税制改正大綱や改正議論の段階から情報を把握することが重要です。
制度は、ある日突然なくなるのではなく、事前に問題提起や評価が行われています。
実務家・経営者・個人いずれにとっても、
「改正が決まってから対応する」
「今年は関係ないから見ない」
という姿勢は、リスクを高める要因になります。
結論
令和8年度税制改正は、租税特別措置が「安定的に使える制度ではない」ことを明確に示しました。
中小企業や個人にとって重要なのは、制度を使うかどうか以上に、制度に依存しない判断ができているかです。
租税特別措置は、あくまで政策目的のための例外的な仕組みです。
それが途中で見直されることは、もはや例外ではありません。
実務では、
・制度がなくなっても成り立つか
・途中で廃止されても影響を最小限にできるか
この視点を持つことが、これからの税制環境における最大のリスク管理といえるでしょう。
参考
・税のしるべ「租税特別措置・補助金見直し担当室が8年度改正の結果を公表」(2026年1月19日)
・令和8年度税制改正大綱
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
