日本の国民医療費は約48兆円規模に達し、社会保障費の中でも最大の支出項目となっています。高齢化の進展を踏まえれば、医療費の増加そのものはある程度避けられない側面があります。しかし、医療費の議論はこれまで「いかに抑制するか」「誰が負担するか」に偏りがちで、その使われ方の構造については十分に検討されてきたとは言えません。
近年、医療費の相当部分が国内経済に循環せず、海外企業へ流出しているという指摘が改めて注目されています。医療費を単なるコストとしてではなく、経済構造の一部として捉え直す視点が、今後ますます重要になります。
医療費が海外へ流出する仕組み
医薬品と医療機器を合わせた日本の貿易収支は、近年大幅な赤字が続いています。抗がん剤や糖尿病治療薬などの新薬分野では外資系企業の存在感が大きく、また人工関節、ステント、画像診断装置などの高額医療機器も輸入依存度が高い状況です。
この結果、日本の医療需要が拡大すればするほど、保険財源を通じて海外企業の売上や利益が増加する構造が定着しています。医療費の増加が国内雇用や産業育成につながりにくい点は、これまで十分に問題視されてきませんでした。
出来高払い制がもたらすインセンティブ
この構造を下支えしている制度の一つが、出来高払い制です。診療行為や処方、検査、医療機器の使用量が増えるほど、医療機関の収入が増える仕組みになっています。
出来高払い制自体は、医療のアクセス確保や標準化に大きく貢献してきました。一方で、「量」を増やすことが収益につながりやすいインセンティブ設計であるため、高価な薬剤や医療機器の使用が抑制されにくい側面もあります。
その結果、医療費の増加が、国内医療の質向上だけでなく、海外への支払い増加にも直結する構造が生まれています。
医療費は「支出」ではなく「投資」である
本来、医療費は国民の健康水準を高め、就労能力や生産性を維持・向上させるための投資です。健康な高齢者が増えれば、介護費用の抑制や労働参加の拡大にもつながります。
しかし、医療費の増加が国内経済の循環に結びつかず、財政負担だけが拡大していく状況は、制度設計として再検討が必要です。単に医療費総額を抑える議論ではなく、「どこに、どのように使われているか」を可視化する視点が欠かせません。
成果を重視する報酬体系への転換
改革の方向性として注目されるのが、出来高払い制から成果を重視する報酬体系への移行です。諸外国では、慢性疾患管理や予防医療において、治療件数ではなく患者の健康改善度や再発防止を評価する仕組みが導入されつつあります。
成果連動型の報酬制度では、過剰な検査や投薬よりも、生活習慣改善や継続的な健康管理が評価されやすくなります。結果として、高価な薬剤・機器の使用量を抑制しつつ、医療の質を維持・向上させる効果が期待できます。
これは医療費の効率化だけでなく、国外流出の抑制にもつながる重要な視点です。
国内医療産業との連携強化
もう一つの重要な論点が、国内産業との連携です。医療データ基盤の整備や規制改革により、国内企業が医薬品や医療機器分野に参入しやすい環境を整えることが、中長期的な外部依存の低減につながります。
短期的なコスト削減だけを重視すると、価格競争力のある輸入品に依存し続ける結果になりがちです。しかし、国内産業の育成は、雇用創出や技術蓄積という観点からも、医療制度と一体で考えるべき政策課題といえます。
結論
医療費の国外流出問題は、単なる貿易収支や医療費抑制の話ではありません。出来高払い制を中心とした報酬体系、産業政策、財政の持続性が絡み合った構造的な問題です。
医療制度改革を社会保障の枠内に閉じるのではなく、日本経済全体の循環や成長力という視点から捉え直すことが求められています。出来高払い制の見直しと国外流出の抑制は、別々の課題ではなく、一体で考えるべきテーマといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞 私見卓見
医療費の国外流出を抑制せよ(医師・労働衛生コンサルタント 山田博規)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

