2026年度予算案が閣議決定され、医療・介護・年金といった社会保障分野での政策の方向性が示されました。なかでも注目されるのが、2026年度の診療報酬改定です。今回の改定は、診療報酬全体で12年ぶりのプラス改定となり、医療従事者の処遇改善を前面に押し出した内容となりました。一方で、医療費の増加は家計の保険料負担に直結します。今回の改定は「家計負担にメリハリ」をもたらすものなのか、その意味を整理していきます。
診療報酬改定の概要
2026年度の診療報酬改定では、医師や看護師など医療従事者の人件費に主に回る「本体」部分が3.09%引き上げられます。3%台のプラス改定は約30年ぶりであり、賃上げ対応分や物価上昇への対応が主な理由です。
一方、処方薬の価格である薬価は0.87%引き下げられました。本体と薬価を合わせた全体の改定率は2.22%のプラスとなり、消費税増税対応を除けば2014年度以来の全体プラス改定となります。
医療機関の経営実態が背景
今回の大幅な引き上げの背景には、医療機関の厳しい経営状況があります。厚生労働省の医療経済実態調査によれば、2024年度の病院の経常利益率は平均で約4%の赤字でした。
診療報酬は公定価格であり、一般企業のように物価上昇分を自由に価格転嫁することができません。このため、物価高と人件費上昇の影響を強く受け、医療機関の経営が圧迫されてきました。
日本医師会や病院団体が大幅な報酬引き上げを求めてきたのは、こうした構造的な事情によるものです。
医療費増加と保険料負担の現実
一方で、診療報酬の引き上げは医療費全体を押し上げます。医療費はすでに年間50兆円規模に達しており、診療報酬を1%引き上げると、医療費は約5,000億円増えるとされています。
医療費の約半分は保険料で賄われており、その中心は現役世代です。健康保険組合連合会によると、大企業の従業員らが加入する健保組合の平均保険料率は、2025年度に9.34%と過去最高水準となりました。
さらに、健保組合の約4分の1が、解散の目安とされる保険料率10%以上に達しています。医療費の増加は、すでに限界に近づいている保険料負担をさらに重くするリスクを抱えています。
「家計負担にメリハリ」とは何か
政府は今回の診療報酬改定について、「家計負担にメリハリをつける」と説明しています。これは、単に報酬を引き上げるのではなく、薬価引き下げや医療の効率化によって負担増を抑える考え方です。
しかし、薬価引き下げだけで医療費全体の伸びを十分に抑えられるかは不透明です。社会保障関係費は2026年度予算案で39兆円台に達し、過去最大を更新しています。診療報酬の引き上げを正当化するためには、医療のムダを減らす改革とセットで進めることが不可欠です。
家計と事業者の視点から
家計にとって重要なのは、医療サービスの質を維持しつつ、保険料負担がどこまで増えるのかという点です。医療従事者の賃上げは社会全体として必要ですが、その財源をどの世代がどのように負担するのかは、引き続き大きな課題です。
また、事業者にとっては、健康保険料の上昇が人件費負担を通じて経営に影響します。賃上げと社会保険料の上昇が同時に進むなかで、持続可能な制度設計が求められています。
結論
2026年度の診療報酬改定は、医療従事者の処遇改善という点では大きな転換点となりました。一方で、医療費の増加が家計や企業の負担を押し上げる構図は変わっていません。
「家計負担にメリハリ」を本当の意味で実現するためには、報酬引き上げと同時に、医療の効率化や給付の見直しといった改革をどこまで進められるかが問われています。今回の改定は、その試金石といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「家計負担にメリハリ 診療報酬改定、12年ぶり全体プラス」
・厚生労働省 医療経済実態調査
・健康保険組合連合会 公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

