中小企業政策は「賃上げ要請」から「成長伴走」へ

政策

2026年度予算に向けて、中小企業政策の軸足が少しずつ変わりつつあります。
日本経済新聞が報じた経済産業省の中小企業向け予算案では、賃上げの直接的な要請だけでなく、技術開発や産学連携、取引環境の是正といった「成長の土台づくり」に重点が置かれています。
本稿では、この予算の中身を整理しつつ、中小企業経営者や支援者の立場から、どのように読み解くべきかを考えます。

中小企業向け予算1079億円の位置づけ

経済産業省は中小企業向けに総額1079億円を計上しました。
目的は明確で、「賃上げを持続可能な形で実現するための経営基盤強化」です。
単年度の補助金で一時的に賃金を引き上げるのではなく、付加価値を高め、その結果として賃上げが可能になる構造をつくろうとしています。

これは、これまで繰り返されてきた「賃上げ要請と現場の疲弊」という構図から一歩進み、成長意欲のある中小企業を選別し、重点支援する姿勢ともいえます。

産学連携・試作品開発への重点支援

今回の予算の中で特徴的なのが、大学や研究機関と連携した試作品開発や販路拡大への支援です。
この分野には122億円が配分され、2026年度からは要件が厳格化される予定とされています。

注目すべき点は、「誰でも使える補助金」ではなくなる可能性が高いことです。
技術力はあるが事業化に至っていない企業、研究成果を市場につなげたい企業など、明確な成長ストーリーが求められるでしょう。
中小企業にとっては、単なる設備投資ではなく、「研究・試作・販売」を一体で考える経営視点がより重要になります。

商工団体を通じた経営改善支援

中小企業にとって最も身近な支援者の一つが商工会・商工会議所です。
今回の予算では、商工団体による経営改善支援に62億円が確保され、前年度から増額されています。

販路開拓や事業継続計画(BCP)の策定支援が想定されており、災害対応や取引先多様化といった「守りの経営」も引き続き重視されています。
補助金や助成金の活用だけでなく、経営計画の見直しや数値管理の強化といった、地道な取り組みの重要性は今後も変わりません。

取引適正化と価格転嫁の現実

取引の適正化にも30億円が投じられます。
背景にあるのは、原材料費や人件費が上昇する中でも、価格転嫁が十分に進んでいない現実です。

25年9月時点の価格転嫁率は53.5%とされています。
半数を超えたとはいえ、依然として多くの中小企業がコスト増を自社で吸収している状況です。
2026年1月に施行される中小受託取引適正化法は、こうした構造を是正する狙いがありますが、制度だけで問題が解決するわけではありません。

賃上げを「経営課題」としてどう考えるか

今回の予算全体から読み取れるのは、賃上げを単なる社会的要請ではなく、「経営課題」として正面から扱おうとする姿勢です。
付加価値をどう高めるのか、価格交渉力をどう確保するのか、研究開発や人材育成をどう位置づけるのか。
これらはすべて、経営者自身が考え続けなければならないテーマです。

補助金や制度はあくまで手段であり、目的ではありません。
支援策を使えるかどうかではなく、「使った先に何を実現したいのか」が問われる局面に入っています。

結論

中小企業政策は、賃上げを求めるだけの段階から、成長を伴走支援する段階へと移行しつつあります。
産学連携、経営改善支援、取引適正化はいずれも、短期的な成果より中長期の体質改善を狙ったものです。

中小企業にとって重要なのは、制度の表面だけを見るのではなく、自社の経営戦略とどう結びつけるかを考えることです。
賃上げは「結果」であり、その前段にある経営の質が、これまで以上に問われています。

参考

・日本経済新聞「中小企業 賃上げや産学連携後押し」(2025年12月27日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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