2026年度の公的年金額は、前年度比2.0%の引き上げとなる見通しです。表面上は4年連続のプラス改定となりますが、実際には給付水準は4年連続で実質的に目減りします。その理由は、マクロ経済スライドが4年連続で発動されるためです。
年金額が増えているはずなのに生活が楽にならない――この違和感の正体を、制度の仕組みから整理してみます。
年金改定の基本構造
公的年金は毎年度、物価や賃金の変動を基準に改定されます。原則として、現役世代の賃金や物価が上昇すれば年金額も上がる仕組みです。
2026年度は物価や賃金の上昇を背景に名目2.0%の引き上げが予定されています。改定後の年金額が実際に支払われるのは、4月分と5月分をまとめて支給する6月からです。
マクロ経済スライドとは何か
マクロ経済スライドとは、年金財政の持続可能性を確保するために設けられた調整措置です。
少子高齢化が進む中で、現役世代の保険料負担と年金給付のバランスを取るため、物価や賃金が上昇しても、その伸びを一定程度抑えて年金額を改定します。
具体的には、
・物価や賃金の上昇率
・被保険者数の減少
・平均余命の伸び
これらを踏まえて、年金の伸びを自動的に抑制する仕組みです。2004年に導入されましたが、物価が上がらない時期が長く、近年まで本格的な発動は限定的でした。
4年連続発動の意味
今回の改定で注目すべき点は、マクロ経済スライドが4年連続で発動されることです。これは制度導入以来、初めての事態です。
物価上昇が続く中でも年金の伸びが抑えられるため、実質的な購買力は低下します。つまり、名目上は年金額が増えていても、物価上昇に追いつかず、生活水準は下がる構造になっています。
基礎年金と財政負担
基礎年金は、すべての加入者が受け取る年金で、その財源の半分は国庫負担です。
2026年度予算案では年金給付費として13.9兆円が計上され、前年度を上回ります。支出総額は増え続けている一方で、個々の受給者の実質給付水準は抑制される――このねじれが、年金制度の現実です。
生活への影響と注意点
年金の「実質目減り」は、特に年金収入への依存度が高い世帯ほど影響が大きくなります。
医療費や介護費、食料品など、生活必需品の価格上昇が続く中で、年金だけで生活費を賄うのは年々難しくなっています。
今後もマクロ経済スライドは原則として続くため、「年金は物価と連動して増える」という前提は見直す必要があります。
結論
2026年度の年金改定は名目上はプラスですが、実質的には4年連続の給付水準低下となります。これは制度の一時的な問題ではなく、少子高齢化を前提とした仕組みの帰結です。
年金制度は「守られる仕組み」から「調整され続ける仕組み」へと完全に移行しています。
今後は、年金だけに依存しない収入や資産の持ち方を、現役世代だけでなく受給世代も含めて考えていく必要があります。
参考
・日本経済新聞「年金改定 4年連続で実質目減り」
・厚生労働省 公的年金制度に関する資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
