成長を目指す積極財政と財政規律のあいだ――2026年度予算案から見える日本財政の現在地――

政策

2026年度予算案が閣議決定され、一般会計総額は122兆円を超え、過去最大規模となりました。政府は「責任ある積極財政」を掲げ、成長によって財政の持続可能性を確保する方針を強調しています。一方で、社会保障費と国債費という固定費の増大、金利上昇局面への転換、減税政策の積み重なりなど、財政運営を巡る環境は一段と複雑さを増しています。本稿では、2026年度予算案の構造を整理しつつ、積極財政が抱える現実的な課題について考えてみます。


過去最大となった2026年度予算案の全体像

2026年度予算案の一般会計総額は122兆3092億円と、前年度当初比で約7兆円増加しました。歳出構造の中で最大を占めるのは社会保障関係費で、39兆円を超えています。高齢化の進行に加え、インフレや賃上げへの対応が重なり、自然増だけで歳出が拡大する構造は変わっていません。

国債費も31兆円を突破し、初めて30兆円台に乗せました。想定金利の引き上げを受け、利払い費は13兆円規模に達しています。金利上昇が本格化すれば、今後さらに国債費が増加する可能性も否定できません。
このように、社会保障費と国債費という「動かしにくい支出」が予算全体を強く制約しているのが、現在の財政構造の特徴です。


「積極財政」の中身はどこに向けられているのか

限られた裁量的支出の中で、政府が重点配分した分野も明確です。防衛費は8兆円台後半に積み上げられ、長射程ミサイルの整備や経済安全保障関連の投資が進められています。
また、科学技術分野では国立大学への運営費交付金が増額され、科研費も15年ぶりの大幅増となりました。成長の源泉として研究開発を重視する姿勢は読み取れます。

一方で、家計支援策として高校授業料の無償化拡大や学校給食費支援も進められています。これらは生活負担の軽減という観点では評価される一方、将来にわたる恒久財源の裏付けが問われる政策でもあります。


成長が金利を上回るという前提の危うさ

政府は「成長によって債務を抑制する」という考え方を前面に出しています。名目GDPが拡大すれば、債務残高GDP比や歳出GDP比は見かけ上改善します。実際、インフレ局面に入った近年、日本の債務指標は一定程度改善してきました。

しかし、この構図はあくまで「成長率が金利を上回る」ことが前提です。過去を振り返ると、日本は長期間にわたり、名目成長率が金利を下回る局面を経験してきました。物価上昇が落ち着き、成長率が鈍化すれば、税収の自然増も期待しにくくなります。その結果、減税や歳出拡大を国債に依存する割合が再び高まる可能性があります。

金利の上昇は即座に利払い費に反映されるわけではありませんが、時間差で財政を圧迫します。現在の指標改善は、この「時差」に支えられている側面があることも冷静に見ておく必要があります。


補正予算常態化がもたらす見えにくさ

近年の財政運営のもう一つの特徴は、年度途中での補正予算が常態化している点です。2025年度補正予算は18兆円規模に達し、当初予算との合算で財政規模は一段と膨らみました。
当初予算だけを見て財政規律を評価することが難しくなっており、決算段階での検証や説明責任の重要性は高まっています。支出の中身が成長につながるものだったのか、単なる一時的な下支えにとどまったのかを検証する視点が欠かせません。


結論

2026年度予算案は、成長を重視する積極財政と、財政規律を意識せざるを得ない現実との間で綱渡りの構造となっています。社会保障費と国債費という固定費が膨らむ中で、限られた政策余地をどこに配分するのか。その支出が本当に将来の成長力を高める「賢い支出」になっているのかが、今後一層問われることになります。

成長が金利を上回る状況が続く保証はありません。インフレの追い風が弱まったときに、どのような財政運営が可能なのか。積極財政の是非を論じる際には、短期的な数字だけでなく、中長期の持続可能性を見据えた冷静な検証が求められています。


参考

・日本経済新聞
 成長探る積極財政 来年度予算案、最大の122兆円決定(2025年12月27日朝刊)
 強い経済 実現綱渡り(2025年12月27日朝刊)
 政府予算案 年度途中の補正が常態化(2025年12月27日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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