法人税申告において、賃上げ税制と試験研究費税額控除は、制度を理解しているつもりでも、計算過程で誤りが生じやすい分野です。
特に税務調査では、制度趣旨よりも、計算ロジックが条文どおりか、除外すべき金額が適切に除かれているかが厳密に確認されます。
第2回では、税務調査で実際に多く見られる否認事例をもとに、賃上げ税制と試験研究費税額控除に共通する「つまずきやすいポイント」を整理します。
賃上げ税制の基本構造を整理する
賃上げ税制(給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、単に給与総額が増えていれば適用できる制度ではありません。
実務上、特に重要となるのは次の3点です。
- 比較対象となる給与等支給額の考え方
- 控除対象となる「雇用者」の範囲
- 補助金・助成金との関係
これらの理解が曖昧なまま計算すると、否認リスクが一気に高まります。
誤り① 雇用安定助成金の控除漏れ
賃上げ税制では、
雇用者給与等支給増加額と調整雇用者給与等支給増加額のいずれか少ない金額が控除対象となります。
このうち、調整雇用者給与等支給増加額の計算では、
雇用安定助成金額を控除する必要があります。
助成金を雑収入として処理していることから、
- 給与計算上は影響がない
と誤認し、そのまま計算してしまうケースは非常に多く見られます。
誤り② 比較給与額が一致しない
適用事業年度と前事業年度の月数が同じであれば、原則として、
- 前期の雇用者給与等支給額
- 当期の比較雇用者給与等支給額
は一致します。
組織再編や期中の特殊事情がないにもかかわらず、これらの金額が一致していない場合、税務調査では計算過程の確認が必ず行われます。
誤り③ 役員親族の給与を含めている
賃上げ税制における「雇用者」には、
- 役員
- 役員と特殊の関係にある者
は含まれません。
特に中小企業では、
- 役員の配偶者
- 役員の親族である従業員
の給与を無意識に含めてしまっているケースが目立ちます。
この点は、形式よりも実質で判断されるため注意が必要です。
誤り④ 出向者給与の取扱いミス
他社へ出向している社員について、
- 出向先から受け取る給与負担金
は、雇用者給与等支給額から除外する必要があります。
給与として支払っている事実があっても、
その原資が第三者から補填されている場合には、
賃上げ税制上は対象外となる点を見落としがちです。
試験研究費税額控除の落とし穴
試験研究費税額控除は、「研究に関係していればよい」という制度ではありません。
税務上の試験研究費は、範囲が明確に限定されています。
誤り⑤ 特許申請費用を含めている
試験研究費として認められるのは、
- 原材料費
- 人件費
- 経費
のうち、試験研究そのものに要する費用です。
特許申請費用や弁理士報酬は、研究成果の保護に関する費用であり、
試験研究費には該当しません。
実務では、研究開発に付随する費用として一括処理されていることが多く、否認されやすい項目です。
誤り⑥ 損金不算入額を含めている
試験研究費税額控除の対象となるのは、
当期の損金の額に算入された費用に限られます。
申告調整により加算した金額や、資産計上した支出を含めている場合、
控除額は過大となります。
誤り⑦ 補助金・助成金の控除漏れ
試験研究費に充てるために、
- 国や自治体からの補助金
- 助成金
を受けている場合には、その金額を試験研究費の額から控除する必要があります。
雑収入の内訳と試験研究費の対応関係を整理していない場合、
この控除漏れは税務調査で必ず指摘されます。
税務調査で見られる共通視点
賃上げ税制と試験研究費税額控除には、共通する調査視点があります。
それは、
- 給与・研究費の総額ではなく「純額」で見ているか
- 第三者から補填された部分を正しく除外しているか
という点です。
計算式そのものよりも、前提条件の整理ができているかが問われます。
結論
賃上げ税制と試験研究費税額控除は、制度を知っているだけでは不十分で、
計算過程における「除外ルール」を正確に理解していなければ、否認リスクが高まります。
第2回では、
- 助成金・補助金
- 対象者・対象費用の範囲
といった、見落とされやすい論点を中心に整理しました。
次回は、中小企業特例が使えない法人の判定や留保金課税をテーマに、
「形式上は中小企業でも否認されるケース」を取り上げます。
参考
- 東京税理士会 研修資料
「誤りやすい事例等及び令和7年度法人税関係法令改正のポイント」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
