AI時代の法人税調査に強くなる 第1回 中小企業向け投資税制で“最も多い誤り”とは何か

税理士
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法人税申告において、中小企業向けの投資促進税制や経営強化税制は、節税効果が大きい一方で、税務調査で否認されやすい制度の代表格でもあります。
制度自体はよく知られていても、「適用できる法人の範囲」や「供用時期」、「対象資産の判定」を誤っているケースは少なくありません。

本シリーズでは、税務調査の現場で実際に指摘されやすい法人税の論点をテーマ別に整理していきます。
第1回となる今回は、中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制を取り上げ、特に誤りの多いポイントを確認します。


中小企業投資促進税制の基本構造

中小企業投資促進税制は、中小企業者等が一定の設備投資を行った場合に、特別償却または税額控除を選択できる制度です。

ここで重要なのは、

  • 特別償却
  • 税額控除

適用要件が同一ではないという点です。

税務調査では、この違いを理解しないまま税額控除を適用しているケースが目立ちます。


誤り① 資本金要件の勘違い

税額控除が適用できるのは、資本金3,000万円以下の法人に限られています。
一方、特別償却については、資本金1億円以下の法人まで対象となります。

この違いを見落とし、

  • 資本金1億円の法人が税額控除を適用
    しているケースは、典型的な否認事例です。

誤り② みなし大企業の判定漏れ

形式的には資本金3,000万円以下であっても、

  • 資本金1億円超の親会社に50%以上保有されている
  • 複数の大規模法人に3分の2以上保有されている

といった場合には、税額控除の対象外となります。

いわゆる「みなし大企業」の判定です。
グループ法人の資本関係を十分に確認せず、安易に中小企業向け税制を適用してしまう点は、調査で非常に厳しくチェックされます。


誤り③ 供用時期の誤認

設備を「取得した」だけでは足りず、事業の用に供した事業年度でなければ税制は適用できません。

決算直前に設備を購入したものの、

  • 実際には稼働していない
  • 設置や調整が終わっていない

といった状態で税額控除を適用している例も多く見られます。

税務調査では、

  • 稼働記録
  • 納品・設置日
  • 使用開始の実態

まで確認されることを意識しておく必要があります。


誤り④ 対象資産の区分ミス

設備の「勘定科目」による思い込みも危険です。

例えば、

  • 医療用のCT装置や超音波診断装置

は、実務上「機械」と認識されがちですが、税務上は器具及び備品に該当します。
この区分誤りにより、制度の対象外となるケースもあります。


誤り⑤ 車両の判定ミス

貨物運送用自動車であっても、

  • 車両総重量3.5トン未満の小型自動車

は、投資促進税制の対象になりません。
登録番号が「4」や「6」の車両を対象に含めている申告は、調査で否認されやすい典型例です。


誤り⑥ 税額控除限度額の超過

税額控除額は、法人税額の20%が上限です。
この上限を超えて控除しているケースも、実務では珍しくありません。

特に、他の税額控除制度と併用している場合には、限度額管理が重要になります。


中小企業経営強化税制での注意点

経営強化税制では、設備要件以前に、
経営力向上計画の認定を受けているか
が絶対条件となります。

計画の認定を受けていないにもかかわらず、

  • 対象設備を取得しただけで税額控除を適用

しているケースは、調査では即否認されます。

また、

  • 認定日と取得日・供用日の前後関係
    にも注意が必要です。

税務調査の視点から見た実務ポイント

税務調査では、制度の「趣旨」よりも、

  • 条文要件を満たしているか
  • 客観資料で裏付けられるか

が重視されます。

中小企業向け投資税制は、
「使えるかどうか」よりも、
「否認されない形で使えているか」
が問われる制度であることを意識する必要があります。


結論

中小企業向け投資税制は、法人税申告において非常に有効な制度ですが、同時に税務調査で最もチェックされやすい分野の一つです。

第1回では、

  • 資本金・資本関係
  • 供用時期
  • 対象資産の判定

といった、基本でありながら誤りやすい論点を整理しました。

次回は、賃上げ税制(給与等支給額増加)や試験研究費税額控除をテーマに、計算誤りが起きやすいポイントを取り上げます。


参考

  • 東京税理士会 研修資料
    「誤りやすい事例等及び令和7年度法人税関係法令改正のポイント」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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