物価高や景気対策の文脈で、「減税」は中小事業者にとって歓迎される政策のように語られがちです。
しかし、実務の現場に立つと、「税金が下がるかどうか」以上に、不安を感じる要素が存在します。
高市早苗首相が「無責任な減税はしない」と繰り返し述べている背景には、財政や市場だけでなく、事業者の現場が混乱することへの警戒も読み取れます。
本稿では、中小事業者にとって減税以上に経営を揺さぶる「本当に怖いもの」は何かを、実務目線で整理します。
怖いもの① 制度変更が「突然」やって来ること
中小事業者にとって最大のリスクは、税率の高低そのものではなく、制度変更のタイミングが読めないことです。
- 施行までの準備期間が短い
- 詳細ルールが直前まで固まらない
- 例外や経過措置が後出しで追加される
この状況では、会計ソフトやレジの改修、社内ルールの整備、取引先への説明が間に合いません。
結果として、ミスや対応漏れが発生し、事業者側の責任として処理されてしまいます。
税率が下がっても、対応が間に合わなければ、現場は混乱するだけです。
怖いもの② 実務コストが静かに積み上がること
減税は「負担が減る」イメージで語られますが、実務では逆の現象が起きることがあります。
- システム改修費
- 外部ベンダーへの委託費
- 顧問税理士・社労士への追加相談
- 社内教育・確認作業の人件費
これらは一つひとつは小さく見えても、積み上がると無視できません。
特に期間限定の制度変更では、元に戻すためのコストが再度発生します。
減税による売上増や利益増が見込めない場合、
「税は下がったが、経費は増えた」
という逆転現象も十分に起こり得ます。
怖いもの③ 説明責任がすべて事業者に来ること
制度が複雑になるほど、説明役は行政ではなく、現場の事業者になります。
- なぜ価格が変わらないのか
- なぜこの商品は対象外なのか
- なぜ請求書の表示が変わったのか
消費者や取引先の疑問・不満は、すべて事業者に向かいます。
特に中小事業者では、経営者自身が説明役になるケースが多く、精神的負担も大きくなります。
この「見えない説明コスト」は、数字には表れませんが、経営の余力を確実に削っていきます。
「税率」より怖いのは「不安定さ」
中小事業者の多くは、
・多少税率が高くても
・多少負担が重くても
先が読めることを重視します。
- いつから変わるのか
- どこまで変わるのか
- いつまで続くのか
これが分かっていれば、価格転嫁、投資判断、人員配置を考えることができます。
逆に、制度が短期間で揺れ動くと、守りに入らざるを得ません。
減税があっても、経営判断が止まってしまえば、景気対策としての効果は限定的になります。
なぜ「責任ある政策」が中小事業者に重要なのか
首相が強調する「責任ある積極財政」や「無責任な減税をしない」という言葉は、
単なる財政規律の話にとどまりません。
中小事業者にとっての「責任ある政策」とは、
- 制度設計がシンプルであること
- 実施時期が早めに示されること
- 期間限定なら出口まで明示されること
です。
これが守られない政策は、たとえ減税であっても、現場にとってはリスクになります。
結論
中小事業者にとって本当に怖いのは、
「税金が高いこと」そのものではありません。
- 突然の制度変更
- 実務コストの累積
- 説明責任の集中
- 先行きの読めなさ
こうした不確実性こそが、経営をじわじわと弱らせます。
減税を行うのであれば、
早く決める、分かりやすく決める、戻すなら最初から示す。
この三点が揃って初めて、中小事業者にとって「ありがたい政策」になります。
税率の上下だけでなく、現場が耐えられる設計かどうか。
そこにこそ、「責任ある政策」が問われているといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「高市首相『無責任な減税しない』単独インタビュー」
・日本経済新聞「問われる『責任』の本質」
・日本経済新聞「首相インタビュー詳報『中国との対話オープン』」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

