高市早苗首相は就任以降、「責任ある積極財政」という言葉を繰り返し用いています。
財政出動に前向きとされてきた政治姿勢との関係から、この言葉はしばしば「拡張財政を正当化するための表現」と受け取られがちです。
しかし、2025年12月の日本経済新聞による一連の単独インタビューを丁寧に読み解くと、高市政権が意識している「責任」は、単なるスローガンではなく、財政・市場・世代間負担を同時に意識した整理概念であることが見えてきます。
本稿では、これらの記事を手がかりに、高市政権が語る「責任」の中身を、減税、国債発行、社会保障改革という三つの視点から整理します。
「無責任な減税をしない」というメッセージの意味
首相はインタビューで、「無責任な国債発行や減税を行うということではない」と明言しました。
この発言は、減税そのものを否定するものではありません。実際、食料品の消費税率0%についても「選択肢として排除しない」と述べています。
注目すべきは、減税を「物価高対策」として即効性があるかどうかという観点で評価している点です。
大規模な制度改修に時間を要する消費税減税は、短期的な物価対策としては効果が限定的であり、現時点では優先順位が低いという判断が示されています。
これは、減税を政治的アピールではなく、政策効果と実務の観点から位置づけ直そうとする姿勢といえます。
国債発行と「市場からの信認」
財政運営において、首相が繰り返し強調したのが「市場からの信認」です。
2025年度補正予算は18兆円超と大規模でしたが、首相は「補正後の国債発行額は前年度を下回っている」と説明しています。
さらに、今後については
・補正ありきの予算編成からの転換
・当初予算に必要な支出をきちんと積む
・国債発行額を注視する
といった方針を明確にしています。
重要なのは、財政規模の大小ではなく、国債発行と中身のメリハリを評価軸に置いている点です。
この姿勢は、金利上昇や円安への直接言及を避けつつも、市場の評価を強く意識していることの裏返しといえるでしょう。
PB目標見直しと債務残高対GDP比
高市政権の特徴の一つが、プライマリーバランス(PB)目標の扱いです。
首相は「PBは役割を終えたとは考えていない」としつつ、単年度黒字化という形式的目標の見直しに言及しました。
その代わりに強調されたのが、
・債務残高対GDP比の安定的な引き下げ
・中期的な視点での財政の持続可能性
という考え方です。
日本の債務残高対GDP比は約240%と、主要国の中でも突出しています。
この現実を直視したうえで、成長率の範囲内に債務の伸びを抑えるという整理は、財政健全化を「数値目標」から「構造目標」へ移そうとする試みと見ることができます。
社会保障と税の一体改革へ
首相が最も力を込めて語っているテーマが、社会保障改革です。
減税や給付を個別に論じるのではなく、「受益と負担」を社会全体で議論するため、超党派の国民会議を設置する意向を示しています。
給付付き税額控除を含め、税と社会保障を一体で設計し直すという考え方は、短期的な人気取り政策とは距離を置くものです。
ここにも、「今を生きる国民と、未来を生きる国民の双方に対する責任」という首相の言葉が通底しています。
結論
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」とは、
・減税や財政出動を否定しない
・しかし、規模ありきでは動かない
・市場の信認と世代間負担を強く意識する
という、現実的で慎重な整理に立脚した考え方だといえます。
問われているのは、この姿勢が言葉にとどまらず、2026年度予算や今後の社会保障改革において、どこまで具体化されるかです。
「責任」は自ら名乗るものではなく、結果として評価されるものです。
高市政権の真価は、これから本格的に試される段階に入ったといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「高市首相『無責任な減税しない』単独インタビュー」
・日本経済新聞「首相、政治の安定重視」
・日本経済新聞「問われる『責任』の本質」
・日本経済新聞「首相インタビュー詳報『中国との対話オープン』」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
