税務調査は、AIとデータ分析の活用によって大きく姿を変えました。
調査件数は減少する一方で、追徴税額は過去最高水準に達し、調査対象は明確に絞り込まれています。
しかし、調査の「考え方」までが激変したわけではありません。
AI時代においても、税務調査で評価を分ける原則は、実は極めてシンプルです。
本稿では、国税庁の調査姿勢や近年の実務を踏まえ、法人・個人を問わず共通する10の原則を整理します。
原則① 調査はランダムではない
AI時代の税務調査は、偶然に当たるものではありません。
申告内容、過去データ、同業比較、外部情報などを基に、違和感のある申告が優先的に選ばれます。
「うちは規模が小さいから大丈夫」
「毎年申告しているから問題ない」
こうした考え方は、もはや前提になりません。
原則② 数字そのものより「動き」が見られる
売上や利益が大きいかどうかよりも、
- 急増・急減
- 同業との差
- 毎年の傾向
といった数字の動きが重視されます。
変化があること自体は問題ではありません。
問題になるのは、その変化を説明できないことです。
原則③ 形式より実態が優先される
帳簿や請求書が整っていても、
取引の実態が伴わなければ評価は下がります。
- 形式上の外注
- 名目だけの取引
- 実態のないインボイス
AI時代の調査では、
「書類があるか」ではなく、
何が行われたかが問われます。
原則④ ミスと不正は明確に区別される
すべての誤りが不正になるわけではありません。
重要なのは、
- 認識していたか
- 隠そうとしたか
- 繰り返しているか
という点です。
意図や態度によって、
- 単なる修正
- 加算税
- 重加算税
の評価が分かれます。
原則⑤ 対応の仕方が評価を左右する
税務調査では、申告内容と同じくらい、
調査時の対応が見られています。
- 事実を整理して説明しているか
- 資料提出が適切か
- 誠実に是正しようとしているか
同じ不備でも、対応次第で結果は大きく変わります。
原則⑥ 「簡易な接触」は分岐点である
簡易な接触は、軽い確認ではありません。
これは、
実地調査に進むかどうかの分かれ目です。
この段階で、
- 冷静に確認する
- 自主的に見直す
- 早めに整理する
ことができれば、調査は深掘りされにくくなります。
原則⑦ 修正申告は義務ではない
修正申告は、税務署に言われたから行うものではありません。
納税者が選択する手続です。
重要なのは、
- その場で決めない
- 波及影響を考える
- 経営判断として整理する
という視点です。
原則⑧ 一度の指摘は「一度きり」ではない
税務調査は、点ではなく線で見られます。
一度指摘された論点は、
- 翌年
- 別の税目
でも確認されやすくなります。
そのため、
「今回だけ直す」
では不十分です。
原則⑨ 最大の対策は平時にある
税務調査対策は、
調査が来てから始めるものではありません。
- 説明できる帳簿
- 整理された証憑
- 明確な処理ルール
これらを平時に整えておくことが、
最も確実な調査対応です。
原則⑩ 説明できる申告が最強である
AI時代の税務調査において、
最終的に問われるのは一つです。
その申告を、自分の言葉で説明できるか。
高度な節税テクニックよりも、
派手な対策よりも、
説明できる申告こそが、最大の防御になります。
結論
AI時代の税務調査は、
恐れるものでも、特別なものでもありません。
調査で評価を分けるのは、
- 実態に基づいた処理
- 不備があった場合の是正
- 一貫した対応
という、極めて基本的な姿勢です。
法人であっても、個人事業主であっても、
求められる原則は共通しています。
「調査が来ないようにする」ことではなく、
「来ても説明できる状態を保つ」こと。
それが、AI時代における
最も現実的で、最も強い税務調査対応です。
参考
・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における税務調査の状況」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
