近年、法人税調査では「実地調査」の前段階として、簡易な接触が増えています。
これは、申告内容に誤りや疑義が想定される法人に対し、税務署が文書や電話で申告内容の見直しを促すものです。
簡易な接触は、軽いものに見えがちですが、対応を誤ると実地調査に発展する分岐点にもなります。
本稿では、法人税における簡易な接触が来たときのNG対応とOK対応を整理します。
そもそも「簡易な接触」とは何か
国税庁が行う簡易な接触は、
- 実地調査ではない
- 強制力のある手続ではない
- 自主的な申告見直しを促すもの
という位置付けです。
ただし、ここでの対応次第で次のステージが決まる点が重要です。
NG対応編
まずは、実務上よく見られる「やってはいけない対応」から確認します。
NG① その場で否定・反論してしまう
電話や文書で指摘を受けた際、
「それは違います」
「うちは問題ありません」
と即答してしまうのは典型的なNGです。
簡易な接触は、事実確認の入口にすぎません。
その場で結論を出そうとすると、
- 説明がぶれる
- 追加資料を求められる
- 不誠実な印象を与える
といったリスクが高まります。
NG② 事実確認をせず感覚で答える
「たぶんこうだったと思います」
「毎年こう処理しています」
こうした曖昧な回答は、税務署側に
「申告内容を把握していない」
という印象を与えます。
AI時代の調査では、数字の違和感+説明の弱さがそろうと、次の調査段階に進みやすくなります。
NG③ 無視・後回しにする
文書が届いたものの、
「急ぎではなさそう」
と対応を後回しにするのも危険です。
簡易な接触は、一定期間内の回答を前提としています。
反応がない場合、
「協力的でない法人」
として実地調査に切り替えられる可能性があります。
NG④ その場で修正を約束する
内容を十分に確認しないまま、
「修正します」
「間違っていました」
と認めてしまうのもNGです。
一度認めてしまうと、
- 他の年度
- 他の論点
に影響が波及することがあります。
OK対応編
次に、実務上望ましい対応を整理します。
OK① まず「確認の時間」を取る
連絡を受けた際は、
「内容を確認のうえ、改めてご連絡します」
と伝えるのが基本です。
これは、
- 回答拒否
- 非協力
ではありません。
適切な実務対応として、税務署側も想定している対応です。
OK② 指摘された論点を正確に把握する
簡易な接触では、
- 売上計上時期
- 特定の経費
- 外注費や役員関連取引
など、論点がある程度絞られています。
まずは、
「どの年度の、どの取引についての指摘か」
を正確に把握することが重要です。
OK③ 事実と証拠を整理してから回答する
事実関係を整理し、
- 契約書
- 請求書
- 取引の流れが分かる資料
を確認したうえで回答します。
この段階で、
- 問題なく説明できる
- 修正が必要そう
- 判断が微妙
の切り分けが可能になります。
OK④ 修正が必要な場合は「自主的」に行う
明らかに誤りがある場合、
簡易な接触の段階で自主的に修正申告を行うことは、
- 加算税の軽減
- 調査の深度回避
につながる可能性があります。
重要なのは、
「言われたから直す」
ではなく、
自社で確認した結果として修正するという姿勢です。
OK⑤ 専門家を早めに関与させる
簡易な接触の段階であれば、
- 論点整理
- 税務署への説明方法
- 修正の要否判断
について、選択肢が多く残されています。
実地調査に進んでからでは、
対応の自由度は大きく下がります。
OK⑥ 将来に向けた改善まで考える
簡易な接触は「一度きりの問題」ではありません。
同じ処理を続けていれば、翌年以降も同様に引っかかります。
- 経理処理ルールの見直し
- 証憑保存体制の改善
- 取引スキームの是正
まで行ってこそ、実務対応は完結します。
結論
法人税の簡易な接触は、
「軽い連絡」でも「調査確定」でもありません。
それは、
是正のチャンスが残された段階です。
NG対応は、
- 焦る
- 即答する
- 感情で動く
OK対応は、
- 確認する
- 整理する
- 冷静に判断する
この差が、
「簡易な接触で終わるか」
「実地調査に進むか」
を分けます。
AI時代の調査対応で最も重要なのは、
早く・静かに・正しく動くことです。
参考
・税のしるべ「6事務年度法人税等の調査事績、追徴税額が6.6%増の3407億円で過去最高に」(2025年12月8日)
・国税庁「令和6事務年度における法人税等の調査事績」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
