署内調査を終えたあと、
「今日はこれで終わりです」
と言われる人もいれば、後日あらためて連絡が入り、実地調査へ進む人もいます。
同じ署内調査でも、その後の流れが分かれるのはなぜなのでしょうか。
本記事では、署内調査がどのようなポイントで評価され、実地調査に進むかどうかが判断されているのかを、個人事業主の視点で整理します。
大前提:署内調査は「ふるい分け」の場
署内調査は、実地調査の前段階として行われることがあります。
近年、国税庁はAIやデータ分析を活用し、調査対象を効率的に絞り込んでいますが、それでも最終判断は人が行います。
署内調査は、
・申告内容に実質的な問題があるか
・実地で確認する必要があるか
を見極める「分岐点」となる位置づけです。
分岐点① 説明と資料が一致しているか
最も基本的な判断材料は、説明と資料が一致しているかです。
たとえば、
・売上の計上方法の説明と帳簿の数字
・経費内容の説明と領収書
・入金時期と通帳記録
これらが自然につながっていれば、署内調査で完結する可能性は高くなります。
逆に、説明と資料が食い違うと、「実地で全体を確認する必要がある」と判断されやすくなります。
分岐点② 金額の大きさと影響範囲
次に見られるのが、金額の大きさと影響範囲です。
・単年度で完結する軽微な修正
・影響額が限定的
こうした場合は、署内調査や文書指導で終わることが多いです。
一方で、
・金額が大きい
・複数年にわたる可能性がある
・消費税や他税目にも影響する
といった場合は、実地調査に進む判断がなされやすくなります。
分岐点③ 処理が一時的か、継続的か
税務署は、
「今回たまたま起きたミスなのか」
「毎年同じ処理をしているのか」
という点を重視します。
単発の計算ミスや認識違いであれば、是正指導で終わることも少なくありません。
しかし、同じ処理が何年も続いている場合は、全体を確認する必要があると判断されます。
分岐点④ 対応姿勢と説明の一貫性
意外に重要なのが、対応姿勢です。
・質問に対して正面から答えているか
・分からないことを無理に断言していないか
・説明に一貫性があるか
これらは、「調査のしやすさ」に直結します。
説明が二転三転したり、後から話が変わったりすると、実地調査で確認せざるを得なくなります。
分岐点⑤ 追加資料で解消できるか
署内調査の場で疑問点が残っても、
「追加資料を出せば解消できそうか」
「現地を見ないと判断できないか」
という点で判断は分かれます。
追加資料で説明がつく場合は、文書提出で完結するケースもあります。
逆に、事業実態そのものの確認が必要な場合は、実地調査に進みます。
実地調査に進みやすい典型例
実務上、次のような場合は実地調査に進みやすい傾向があります。
・売上除外や二重帳簿が疑われる
・経費の私的流用が多い
・インターネット取引の実態確認が必要
・説明と数字のズレが大きい
いずれも、署内だけでは判断が難しいケースです。
署内調査で完結しやすいケース
一方で、
・帳簿と資料が整っている
・説明が論理的で一貫している
・修正点が限定的
こうした場合は、署内調査で完結する可能性が高まります。
重要なのは「完璧さ」ではなく、「説明可能性」です。
結論
署内調査から実地調査に進むかどうかは、偶然や担当者の気分で決まるものではありません。
説明と資料の整合性、金額の影響、処理の継続性、対応姿勢といった複数の要素を総合して判断されています。
個人事業主として意識したいのは、
・事実に基づいて説明する
・無理に取り繕わない
・資料で説明できる状態を保つ
これらを守ることで、調査は必要以上に重くなりにくくなります。
署内調査は「分かれ道」ですが、日頃の準備次第で、進む先は大きく変わります。
参考
・税のしるべ「令和6事務年度の所得税調査等の状況」(2025年12月15日)
・国税庁「所得税及び消費税調査等の実施状況に関する公表資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
