個人事業主が知っておきたい、AI時代の税務調査の実態

税理士
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「最近、税務署から文書や電話が来やすくなった気がする」
個人事業主の方から、こうした声を聞くことが増えています。

2025年12月、国税庁は令和6事務年度の所得税調査の状況を公表しました。そこから見えてきたのは、税務調査の件数が増えたという話ではなく、調査のやり方そのものが大きく変わってきているという事実です。

特に重要なのが、AIを活用した調査対象の選定です。本記事では、国税庁の公表内容をもとに、個人事業主として知っておきたいポイントを整理します。

税務調査は「いきなり来る」ものではなくなっている

まず押さえておきたいのは、税務調査の大半は、いわゆる「立ち入り調査」ではないという点です。

令和6事務年度に行われた所得税の調査等は約73万件ありましたが、そのうち実際に事業所や自宅に来る実地調査は約4万7千件にとどまります。残りの大部分は、文書や電話による確認、税務署での面談といった「簡易な接触」です。

つまり、多くの個人事業主にとって、税務署との最初の接点は「お知らせ」や「確認」の形で始まるケースが増えているといえます。

簡単なミスは、簡単なやり取りで是正される

簡易な接触が増えている背景には、申告内容の軽微なミスを早めに是正する狙いがあります。

たとえば、
・添付書類の漏れ
・数字の計算誤り
・経費区分の勘違い

こうしたケースは、文書や電話での確認によって修正が行われることが多くなっています。実際、申告漏れが見つかった件数のうち、大半は簡易な接触によるものです。

重要なのは、「簡易だから軽く見てよい」という話ではないことです。内容次第では、後の実地調査につながる可能性もあるため、誠実かつ丁寧な対応が求められます。

本格調査は「狙い撃ち」される時代

一方で、実地調査の件数は減っているにもかかわらず、追徴税額は過去最高となっています。これは何を意味しているのでしょうか。

答えは明確で、実地調査は、金額が大きく、内容も悪質と見込まれるケースに絞られているということです。

国税庁は、過去の調査結果や各種資料をもとにAIによる予測モデルを構築し、申告漏れの可能性が高い事業者を選定しています。その結果、実地調査1件あたりの追徴税額が大きくなっているのです。

個人事業主が特に意識すべきポイント

では、個人事業主は何に気をつければよいのでしょうか。

まず意識したいのは、
・売上と入金のズレがないか
・経費の内容が事業実態と合っているか
・帳簿や証憑が説明できる形で残っているか

という基本的な点です。AIが見ているのは「不自然さ」です。極端な数字の変動や、業種と合わない経費構成は、調査対象として浮かび上がりやすくなります。

インターネット取引は見られている前提で考える

国税庁が重点調査対象として挙げている中には、「インターネット取引を行っている個人」が含まれています。

ネット販売、アフィリエイト、動画配信、暗号資産取引などは、取引履歴がデータとして残りやすい分、把握もしやすい分野です。「現金取引だから分からないだろう」という時代ではありません。

副業感覚で始めた取引であっても、事業所得や雑所得として適切に申告する必要があります。

「無申告」「還付申告」は特に注意

無申告者や、消費税の還付申告を行っている事業者も重点調査対象とされています。

申告をしていない、あるいは還付を受けている場合は、どうしても調査の優先順位が上がります。還付申告自体は正当な制度ですが、内容の裏付けが重要になります。

結論

今回の国税庁の公表から分かるのは、税務調査が「数を当たる」時代から、「データで選ぶ」時代に完全に移行しているという点です。

個人事業主にとって重要なのは、特別な対策ではありません。
日々の取引を正しく記録し、説明できる形で残しておくこと。
それが、AI時代の税務調査における最大の防御策といえます。

不安を感じたときこそ、早めに専門家に相談し、足元を整えておくことが大切です。

参考

・税のしるべ「令和6事務年度の所得税調査等の状況」(2025年12月15日)
・国税庁「所得税及び消費税調査等の実施状況に関する公表資料」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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