相続税調査は、ここ数年で大きく姿を変えています。
件数や追徴税額の増加だけを見ると、「厳しくなった」という印象を受けがちですが、実務の現場では、調査の進め方そのものが変わったと感じる場面が増えています。
本シリーズでは、相続税調査の最新動向から、簡易な接触、調査に発展しやすい申告、AI活用、調査後の対応までを整理してきました。
最終回となる本記事では、それらを横断し、現在の相続税調査の特徴と、これから意識すべき実務対応をまとめます。
「突然来る調査」から「段階的な確認」へ
かつての相続税調査は、実地調査が中心でした。
ある日突然、調査官が訪問するというイメージを持つ方も多かったと思います。
しかし現在は、
・簡易な接触
・文書や電話による確認
・来署依頼
といった段階的な確認が主流になっています。
調査は一気に始まるのではなく、確認を積み重ねた結果として実地調査に至る流れに変わっています。
「申告漏れを探す」から「整合性を確認する」へ
調査の目的も変化しています。
単純な申告漏れを探すというより、
・申告内容が他の情報と整合しているか
・説明不能な点が残っていないか
を確認する色合いが強くなっています。
これは、申告水準が全体として向上していることの裏返しでもあります。
一方で、「説明できない部分」がある申告は、以前よりも目立つようになっています。
AI活用で「見逃されにくく」なった
AI活用により、相続税調査はより事前分析型になっています。
申告書単体では問題がなくても、
・過去の所得状況
・資産の推移
・名義と実質の関係
などを組み合わせることで、違和感が浮かび上がります。
重要なのは、AIが調査をするわけではないという点です。
AIはあくまで「人が見るための材料」を整理しているにすぎません。
しかしその結果、人による確認は、以前よりも鋭くなっています。
調査に発展する分岐点は「対応の質」
本シリーズで繰り返し述べてきたとおり、
相続税調査に発展するかどうかは、金額の多寡だけで決まりません。
・簡易な接触への対応
・資料の整理の仕方
・説明の一貫性
といった、対応の質が大きく影響します。
同じ内容の申告でも、
「説明できる状態」であれば調査に至らず、
「説明が曖昧」であれば実地調査に進む、
という分かれ方をするケースも珍しくありません。
調査後は「冷静な判断」が結果を左右する
調査を受けた後の対応も、結果を大きく左右します。
・すべてを認めて修正するのか
・一部について見解を主張するのか
・加算税リスクをどう評価するのか
感情的な対応は、実務上ほとんどプラスになりません。
事実関係と証拠を整理し、どこまで対応すべきかを冷静に判断することが重要です。
相続税申告に求められる姿勢の変化
現在の相続税申告では、
「提出できる申告書」では不十分です。
求められているのは、
・後日確認されても説明できる
・数字に理由がある
・記録が残っている
申告です。
相続税申告は、提出した瞬間で終わるものではなく、
将来の確認を前提とした手続になっています。
結論
相続税調査は、量的にも質的にも変化しています。
AI活用や簡易な接触の拡大により、調査はより身近で、より現実的なものになりました。
一方で、必要以上に恐れる必要はありません。
重要なのは、
・事実を整理すること
・説明できる申告を行うこと
・調査後も冷静に対応すること
です。
相続税調査は、「特別な人だけが受けるもの」ではなくなりました。
だからこそ、普通の申告を、丁寧に行うことが、最大の調査対策になります。
参考
・税のしるべ「6事務年度の相続税調査状況、追徴税額は12.3%増の962億円」(2025年12月22日)
・国税庁「相続税の調査状況に関する公表資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
