相続税調査が過去最高水準に 数字から見える国税の本気度

税理士
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相続税は「申告すれば終わり」と考えられがちですが、近年、国税当局の調査姿勢は明らかに変化しています。
国税庁が公表した令和6事務年度の相続税調査状況を見ると、調査件数・追徴税額ともに過去最高水準となりました。
本記事では、その数字を整理しながら、現在の相続税調査の特徴と、納税者・実務家が注意すべきポイントを解説します。

調査件数・追徴税額ともに過去最高

令和6事務年度における相続税の調査等件数(実地調査+簡易な接触)は、前年度比15.2%増の3万1,481件となりました。
追徴税額は12.3%増の962億円で、いずれも平成28事務年度以降で最高です。

特に注目すべきは、調査の「量」だけでなく「成果」が伴っている点です。
実地調査だけを見ても、追徴税額は824億円と、過去10年間で最高となっています。

実地調査の特徴 件数増でも非違割合は低下

実地調査件数は9,512件(11.2%増)、非違件数は7,826件(8.7%増)と増加しましたが、非違割合は82.3%と1.9ポイント低下しました。
これは、申告水準が一定程度向上している一方で、調査対象が広がっていることを示唆しています。

1件当たりの申告漏れ課税価格は3,093万円とやや減少しましたが、追徴税額は867万円と微増しています。
加算税の影響や、悪質事案への対応が反映された結果と考えられます。

重加算税は増加傾向

重加算税の賦課件数は1,065件(9.7%増)と増加しました。
申告漏れ課税価格全体のうち、重加算税対象となった金額は444億円で、18.4%増となっています。

意図的な財産隠しや仮装行為に対しては、依然として厳しい姿勢が取られていることが分かります。

「簡易な接触」が主流に

国税庁は、実地調査に限らず、「お尋ね」や電話・来署依頼による面接などの簡易な接触を積極的に活用しています。
接触件数は2万1,969件(17.0%増)、追徴税額は138億円(13.0%増)と、こちらも過去最高です。

実地調査ほど負担が大きくない一方で、申告漏れがあれば確実に是正される点に注意が必要です。

AI活用と調査選定の高度化

相続税調査では、AIを活用した事案選定が本格化しています。
令和5年以降に発生した相続事案から、AIを活用した実地調査選定が行われ、令和7事務年度以降に調査が実施されています。

つまり、今回公表された令和6事務年度の実績は、AI本格稼働前の段階です。
今後は、より精度の高い選定が進み、調査の質が一段と高まることが予想されます。

無申告・海外資産への重点対応

無申告事案の調査件数は減少したものの、追徴税額は142億円と過去最高でした。
「申告していない=見逃される」時代ではないことが明確になっています。

また、海外資産関連事案では、調査件数・申告漏れ課税価格ともに過去最高となりました。
CRS情報など国際的な情報交換制度の活用が進み、海外資産の把握力が高まっていることが背景にあります。

結論

今回の調査結果から読み取れるのは、国税当局が「数」と「質」の両面で相続税調査を強化しているという事実です。
形式的に申告を整えるだけでは不十分で、財産評価や申告内容の合理性がより厳しく問われる時代に入っています。

相続税申告は、一度提出すると修正が難しい分野です。
将来の調査リスクを見据えた、丁寧で説明可能な申告が、これまで以上に重要になっています。


参考

・税のしるべ「6事務年度の相続税調査状況、追徴税額は12.3%増の962億円」(2025年12月22日)
・国税庁「相続税の調査状況に関する公表資料」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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