保険生かせぬ災害列島(総論)災害リスクとどう向き合うか――日本経済の耐久力を問い直す

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本シリーズでは、日本が災害大国であるにもかかわらず、経済損失に対する保険補償が十分に機能していない現状を、現状分析、企業行動、制度設計という三つの視点から見てきました。
補償が3割程度にとどまるという事実は、単なる保険加入率の問題ではありません。それは、日本経済全体が災害リスクをどのように捉え、どこまで備えてきたのかを映し出しています。

災害は例外ではなく前提条件

かつて災害は「想定外」とされることが少なくありませんでした。しかし、近年の地震、水害、土砂災害の発生状況を見ると、その前提はもはや成り立ちません。
災害は例外的な出来事ではなく、経済活動の前提条件になりつつあります。それにもかかわらず、日本では災害後の復旧を重視する一方で、経済的な備えは後回しにされがちでした。

保険補償率の低さが意味するもの

経済損失の大半が保険でカバーされないということは、被災後の再建を自己資金や借入、公的支援に依存せざるを得ないことを意味します。
その結果、復旧に時間がかかり、企業活動や雇用の回復が遅れ、地域経済全体が長期にわたって停滞するリスクが高まります。
保険補償率の低さは、災害対応の問題であると同時に、日本経済の回復力の問題でもあります。

企業任せでは限界がある

シリーズ第2回で見たように、企業が災害リスクに十分備えきれない背景には、制度の複雑さや資金繰りの現実があります。
特に中小企業にとって、災害は経営の存続そのものを揺るがすリスクです。保険加入を促すだけではなく、加入しやすく、実際に役立つ仕組みでなければ意味がありません。
災害リスクへの対応を、企業の自己責任だけに委ねることには明確な限界があります。

官民で分担すべきリスク

災害の規模が拡大する中で、民間保険だけでは引き受けきれないリスクが増えています。これは日本だけでなく、世界共通の課題です。
海外では、政府が一定の役割を担い、官民でリスクを分担する仕組みづくりが進んでいます。公的関与は、民間を代替するものではなく、補完する役割として位置付けられています。
日本においても、保険を軸としながら、公的制度をどう組み合わせるかという視点が不可欠です。

事後対応から事前の備えへ

もう一つ重要なのは、災害対応の重心をどこに置くかという点です。
被害が出てから補償する事後対応だけでは、経済的損失の拡大を防ぐことはできません。防災・減災投資、事業継続計画の整備、リスク情報の共有など、事前の取り組みが被害の大きさと復旧の速さを左右します。
保険は、こうした事前の備えを後押しする仕組みとして機能する必要があります。

結論

災害リスクへの向き合い方は、保険の問題にとどまりません。それは、日本経済の耐久力をどう高めるかという、より大きな問いにつながっています。
災害を前提とした経済社会へと発想を転換し、官民の役割分担を見直し、事前の備えを重視する仕組みを構築できるかどうかが、今後の日本の持続性を左右します。
保険を生かせないままでいるのか、それとも災害と共存する経済モデルへと進むのか。選択は、これからの制度設計と社会の意思に委ねられています。

参考

・日本経済新聞「保険生かせぬ災害列島 損失補償3割どまり 経済の早期復旧を左右」
・日本経済新聞「#チャートは語る」関連記事
・国土交通省 災害統計資料
・再保険会社および保険業界による自然災害リスクに関する公表資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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