保険生かせぬ災害列島③ 官民でどう備えるか――制度とリスク管理の再設計

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

前回までに、日本が災害大国であるにもかかわらず、保険補償率が低水準にとどまっている現状と、企業が災害リスクに十分備えきれない構造的な要因を確認しました。
こうした課題を企業や個人の自己努力だけに委ねることには、すでに限界が見えています。災害リスクが激甚化・頻発化する中で、官民を含めた制度全体の再設計が求められています。

激甚化・頻発化する災害という前提

近年の災害は、局地的で一過性のものではなくなっています。豪雨や台風による水害、土砂災害は全国各地で繰り返し発生し、被害額も拡大しています。
地球温暖化の影響を踏まえれば、この傾向は今後も続くと考えるのが自然です。災害は「想定外」ではなく、「起きる前提」で備えるべきリスクへと変わりつつあります。

保険市場だけでは対応しきれないリスク

本来、保険はリスクを分散し、社会全体で負担を分かち合う仕組みです。しかし、被害規模が大きくなればなるほど、民間保険だけで引き受けられるリスクには限界が生じます。
保険料の上昇や引受制限が進めば、加入できない企業や個人が増え、結果として補償の空白が広がります。これは、日本に限らず、世界共通の課題となっています。

海外に見る官民連携の動き

海外では、こうした限界を踏まえ、政府が一定の役割を担う動きが広がっています。
自然災害リスクに対して、官民で資金を拠出する枠組みを設け、保険市場を補完する仕組みづくりが進められています。政府が再保険的な役割を果たすことで、民間保険の引受余力を高め、補償の持続性を確保しようとする考え方です。
また、事後補償だけでなく、事前の防災・減災投資を促す点も特徴です。

日本に求められる制度的視点

日本でも、公的支援は存在しますが、多くは災害発生後の対応に重きが置かれています。生活再建支援や復旧事業は重要である一方、経済活動の早期回復という視点では十分とは言えません。
今後は、保険を軸としつつ、公的関与によって補償の空白を埋める仕組みや、事前の減災投資を後押しする制度設計が求められます。
災害リスクは、個人や企業だけで背負うものではなく、社会全体で管理すべきリスクだという認識が必要です。

事後補償から事前減災へ

もう一つ重要なのは、被害が出てから補償する発想から、被害を小さくする発想への転換です。
防災インフラの整備、企業や地域の事業継続計画の充実、リスク情報の共有など、事前の取り組みが被害規模を左右します。保険は、その取り組みを支える一つの手段として位置付けられるべきでしょう。

結論

日本は、これからも災害と共存せざるを得ない国です。だからこそ、災害による経済的打撃をどう吸収し、いかに早く立ち直るかが問われています。
保険を生かしきれない現状は、制度や意識の問題でもあります。官民の役割分担を見直し、事前の備えを重視する社会へと転換できるかどうかが、日本経済の持続性を左右します。
災害リスクへの向き合い方は、保険の問題にとどまらず、社会のあり方そのものを映す鏡となっています。

参考

・日本経済新聞「保険生かせぬ災害列島 損失補償3割どまり 経済の早期復旧を左右」
・日本経済新聞「#チャートは語る」関連記事
・国土交通省 災害統計資料
・海外における自然災害リスク管理に関する公表資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました