地震や水害、土砂災害が相次ぐ日本は、世界有数の災害多発国です。しかし、災害によって生じる経済的な損失に対し、保険が十分に機能しているかというと、必ずしもそうとは言えません。
近年の大規模災害を振り返ると、被害総額のうち保険で補償される割合は3割程度にとどまっています。この数字は、災害からの復旧が遅れる構造的な問題を浮き彫りにしています。
災害大国・日本の現実
日本では、地震や台風、豪雨による被害が毎年のように発生しています。国土が山地に富み、河川が急であることに加え、気候変動の影響により災害は激甚化・頻発化しています。
統計を見ても、土砂災害や水害の発生件数、被害額はいずれも長期的に増加傾向にあります。災害は一時的な出来事ではなく、日本経済にとって恒常的なリスクとなっています。
それでも低い保険補償率
こうした状況にもかかわらず、日本では災害による経済損失のうち、保険で補償される割合が低水準にとどまっています。
再保険会社の分析によると、2024年に発生した能登半島地震では、経済損失のうち保険で補償できたのは3割に満たない水準でした。これに対し、米国ではおおむね5割を超え、英国では7割前後が保険でカバーされています。
日本は災害の発生頻度が高いにもかかわらず、保険による経済的な下支えが相対的に弱い国だといえます。
背景にある保険普及の問題
背景の一つとして指摘されるのが、損害保険の普及率の低さです。国内総生産に対する損害保険料の割合は、日本では主要国を下回る水準にあります。
個人向けの地震保険だけでなく、企業向けの保険についても、補償範囲が限定的であったり、そもそも加入していなかったりするケースが少なくありません。
災害リスクは高いにもかかわらず、万一のときは公的支援がある、そこまで大きな被害にはならないだろうといった意識が、保険加入を抑制してきた面もあります。
経済復旧を左右する補償の厚み
災害後の復旧スピードを左右するのは、被害の大きさだけではありません。どれだけ早く資金が供給されるかが重要です。
保険による補償が十分であれば、被災した個人や企業は早期に生活や事業を再建できます。一方、補償が不十分な場合、自己資金や借入に頼らざるを得ず、復旧が長期化します。
この差は、地域経済の回復力や雇用の維持にも直結します。保険補償率の低さは、単なる金融の問題ではなく、日本経済全体の耐久力に関わる課題です。
国際比較で見える日本の立ち位置
欧米では、災害リスクを前提とした経済運営が進んでいます。企業は保険を含めたリスク管理体制を整えることが求められ、投資家や株主もその姿勢を重視します。
一方、日本では、災害対応は依然として事後対応の色合いが強く、保険は補助的な位置付けにとどまりがちです。この違いが、補償率の差となって表れています。
結論
日本は災害を避けることができない国です。にもかかわらず、経済損失に対する保険の活用は十分とは言えません。
補償が3割どまりである現状は、災害後の復旧を遅らせ、日本経済の脆弱性を高めています。次回は、こうした構造の中で、企業はなぜ災害リスクに備えきれないのか、企業と保険の関係に焦点を当てて考えていきます。
参考
・日本経済新聞「保険生かせぬ災害列島 損失補償3割どまり 経済の早期復旧を左右」
・日本経済新聞「#チャートは語る」関連記事
・国土交通省 災害統計資料
・再保険会社による自然災害と保険補償に関する公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
