2026年度税制改正は、家計支援、企業支援、資産形成、富裕層課税、地方税制と、極めて広範な分野に及ぶ内容となりました。
年収の壁の引き上げに象徴されるように、「手取りを増やす」ことが前面に出た改正でもあります。
一方で、減税や優遇策が積み重なるなか、財源の問題や制度の持続可能性については、多くの論点が先送りされました。
今回の税制改正は、何を解決し、何を残したのでしょうか。
本稿では、これまでの連載を踏まえ、2026年度税制改正を「成長」「分配」「財政」という三つの視点から整理します。
成長をどう後押ししようとしたのか
今回の税制改正で最も明確なのは、成長志向です。
全産業を対象とした設備投資減税や、AI・量子分野に重点を置いた研究開発税制の拡充は、企業の投資意欲を高めることを狙ったものです。
税制を通じて、国内投資を促し、産業の空洞化を防ごうとする意図が読み取れます。
もっとも、税制はあくまで後押しに過ぎません。
投資判断の中心にあるのは、需要見通しや世界経済の動向であり、税制だけで企業行動が大きく変わるわけではないという限界も、同時に浮かび上がりました。
分配をどう考えたのか
分配の面では、年収の壁178万円への引き上げが象徴的です。
物価上昇による実質的な負担増を緩和し、中所得層まで含めて幅広く手取りを増やす設計となりました。
また、NISAの拡充や暗号資産課税の見直しは、資産形成を通じた将来の分配を意識した施策といえます。
一方で、非課税世帯や低所得層には効果が及びにくいという限界もあります。
富裕層課税では、「1億円の壁」是正や相続税評価の見直し、ふるさと納税の上限設定など、一定の再分配強化が行われました。
減税一辺倒ではなく、負担能力に応じた負担を求める姿勢も示されています。
財政との緊張関係
成長と分配を重視した結果、財政との緊張関係は避けられませんでした。
減税や優遇策が積み重なった一方で、安定的な財源確保は後回しとなっています。
税収の自然増を前提とした判断は、景気や金利動向に左右されやすく、持続的とは言い切れません。
国債依存が続くなかで、金利上昇が進めば、将来の予算運営は一層厳しくなります。
今回の改正は、財政の制約の中でどこまで踏み込めるのかという限界も同時に示しました。
地方税制が投げかけた問い
固定資産税をめぐる都市と地方の税収格差の議論は、今回の税制改正が抱える構造的な問題を象徴しています。
都市に集中する税収と、人口減少に苦しむ地方。
この格差をどう是正するのかは、単なる税制の問題にとどまらず、国のかたちそのものに関わります。
結論は先送りされましたが、議論の俎上に載せたこと自体が、今後の大きな転換点になる可能性があります。
結論
2026年度税制改正は、成長を促し、分配を意識しながらも、財政とのバランスに苦慮した改正でした。
短期的な家計支援や企業支援には一定の効果が期待されますが、制度の持続可能性という課題は残されています。
税制改正は、毎年の景気対策であると同時に、社会の価値観を映し出す制度でもあります。
今回の改正が「一時的な手当て」に終わるのか、それとも中長期的な制度改革への入口となるのかは、今後の議論と選択に委ねられています。
参考
- 日本経済新聞
「全産業で設備投資減税 与党税制大綱決定」
「税制改正、手取り増優先 年収の壁上げ」
「物価高・ゆがみ是正を意識 税制こう変わる」
「都市と地方の税収格差、固定資産税も是正検討」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

