2026年度の税制改正大綱で、所得税がかかり始める「年収の壁」が178万円まで引き上げられることが決まりました。
年収の壁は、ここ数年で一気に注目を集めた言葉ですが、2025年度に103万円から160万円へ引き上げられたばかりです。そこからわずか1年で、再び178万円へと引き上げられることになりました。
なぜ、これほど短期間に続けて見直されるのでしょうか。
そして今回の改正は、誰にとって、どのような意味を持つのでしょうか。
本稿では、年収の壁178万円の制度的な位置づけと、今回の引き上げが行われた背景を整理します。
年収の壁とは何を指しているのか
いわゆる「年収の壁」とは、法律上の用語ではありません。
実際には、所得税の課税が始まる水準を指す俗称です。
会社員の場合、所得税の計算では、
- 基礎控除
- 給与所得控除
といった人的控除が差し引かれます。
これらの控除を合計した額までは、税金がかかりません。
2024年まで、この水準は長らく年収103万円でした。
基礎控除48万円と、給与所得控除の最低保障55万円を合計した金額です。
2025年度税制改正で、約30年ぶりにこの水準が160万円へ引き上げられました。
そして2026年度改正では、さらに178万円へ引き上げられます。
なぜ2年連続で引き上げられたのか
今回の改正を理解する鍵は、物価上昇です。
物価が上がれば、名目賃金も上昇します。
しかし、税制が据え置かれたままだと、実質的には税負担が増えることになります。これを、インフレによる実質的な増税と捉える見方もあります。
政府・与党は今回、物価上昇が一時的なものではなく、定着しつつあると判断しました。
その結果、控除額を定期的に見直す仕組みを新設し、その第一歩として年収の壁を178万円まで引き上げることになりました。
短期間での再改正は、制度の安定性という点では課題を残しますが、物価環境の急変に対応するための措置といえます。
中所得層まで広げた理由
今回の改正の特徴は、低所得層だけでなく、中所得層まで対象を広げた点にあります。
178万円への引き上げにあわせて、基礎控除の手厚さは年収665万円程度まで及びます。
これは、従来の低所得者対策という枠を超えた設計です。
背景には、働く現役世代の手取りを幅広く増やしたいという政治的な判断があります。
特に、国民民主党や日本維新の会が主張してきた中間層重視の考え方が反映されました。
政治状況が与えた影響
今回の税制改正は、与党が参院で過半数を持たない状況でまとめられました。
そのため、野党の要求を取り入れた内容が目立ちます。
年収の壁引き上げは、まさにその象徴です。
減税規模は想定より膨らみ、財源確保は後回しになりました。
制度の是非とは別に、税制改正が政治力学と密接に結びついていることが、今回も改めて浮き彫りになったといえます。
結論
年収の壁178万円への引き上げは、単なる数字の変更ではありません。
物価上昇への対応、中所得層への配慮、少数与党下での政治判断が重なった結果です。
一方で、減税の効果がどこまで持続するのか、財源をどう確保するのかという課題は残されています。
次回は、実際に手取りはどの程度増えるのか、その効果と限界を具体的に見ていきます。
参考
- 日本経済新聞
「全産業で設備投資減税 与党税制大綱決定」
「税制改正、手取り増優先 年収の壁上げ」
「物価高・ゆがみ是正を意識 税制こう変わる」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
次はこちら↓
2026年度税制改正 第2回(家計編②)手取りは本当に増えるのか― 年収別・世帯別にみる減税効果とその限界 | 人生100年時代を共に活きる税理士・FP(本格稼働前)
