給食無償化は「子育て支援」か「新たな恒久給付」か――月5200円・所得制限なし政策をどう読むか

FP

2026年4月から、公立小学校を対象に給食費の無償化が実施される見通しとなりました。自民党、日本維新の会、公明党の3党が合意し、児童1人あたり月5200円程度を国が支援する仕組みです。所得制限は設けず、自治体の財政負担も生じない制度設計とされています。

給食費の無償化は、すでに多くの自治体で独自に実施されてきましたが、国が制度として全国一律に関与するのは大きな転換です。本稿では、この給食無償化政策について、制度の中身、財政的な意味、そして今後の論点を整理します。

1.今回合意された給食無償化の制度概要

今回の合意のポイントは、次のとおりです。

  • 対象は公立小学校
  • 児童1人あたり月5200円程度を国が支援
  • 所得制限は設けない
  • 自治体負担が生じない仕組み
  • 給食費が基準額を上回る場合は保護者の一部負担を容認

当初は月4700円程度が想定されていましたが、物価上昇を反映して5200円に引き上げられました。食材費高騰への自治体側の要望を踏まえた修正といえます。

制度上は、自治体に対して新たな交付金を創設し、児童数に応じて補助する形となります。形式的には自治体を経由しますが、財源は国が実質的に負担する構造です。

2.「無償化」という言葉の整理

今回の制度は「給食費無償化」と呼ばれていますが、厳密には「一定額まで国が負担する仕組み」です。地元農産品の活用や独自メニューにより給食費が5200円を超える自治体では、超過分を保護者が負担する余地が残されています。

完全な一律無償ではなく、地域の裁量を一定程度認める設計である点は重要です。これは、無償化によって給食の質が画一化されることを避けるための配慮とも読み取れます。

3.所得制限を設けなかった意味

今回の制度で特に注目されるのが、所得制限を設けなかった点です。近年の子育て支援策では、「全世帯対象」が一つの流れとなっています。

所得制限を設けないことには、次のようなメリットがあります。

  • 制度が簡素で分かりやすい
  • 申請や確認事務が不要
  • 中間層の不満を生みにくい

一方で、政策の効率性という観点では、高所得世帯にも同じ給付を行うことへの疑問も残ります。限られた財源をどこに重点配分するかという問題は、今後も繰り返し問われるでしょう。

4.年間3000億円規模の恒久財源という重み

公立小学校の給食無償化には、年間で約3000億円規模の予算が必要とされています。これは一時的な給付ではなく、毎年継続する恒久的な支出です。

高市首相は、財源について「歳出改革や租税特別措置の見直し」により捻出すると述べています。しかし、具体的にどの歳出を削り、どの税制優遇を見直すのかは、現時点では明らかになっていません。

給食無償化は国民の支持を得やすい政策である一方、裏側では「別のどこかの予算」が削られることになります。財源論を曖昧にしたまま制度だけが先行する構図には注意が必要です。

5.教育政策か、子育て支援か

給食無償化は「教育の一環」として語られることもあれば、「子育て支援策」として説明されることもあります。どちらの位置づけを重視するかで、今後の制度設計は変わってきます。

教育政策として考えるなら、給食の質や食育との関係が重要になります。一方、子育て支援として考えるなら、他の支援策とのバランスや所得再分配の在り方が論点となります。

今回の制度は、その両方の性格を併せ持つ中間的な位置づけといえるでしょう。

結論

給食費無償化は、保護者の負担軽減という点では分かりやすく、支持を得やすい政策です。月5200円、所得制限なしという設計は、現行の物価水準や事務負担を踏まえた現実的な落としどころともいえます。

一方で、年間3000億円規模の恒久財源をどう確保するのか、他の政策との優先順位をどう整理するのかといった課題は残ります。給食無償化は単独で完結する政策ではなく、日本の財政や社会保障全体の中で位置づけ直されるべきものです。

今後、財源論や対象拡大の議論が本格化する中で、この政策がどのように定着していくのかを注視していく必要があります。

参考

  • 日本経済新聞「給食無償化、月5200円 自維公が合意」(2025年12月19日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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