日本銀行が公表した資金循環統計によると、2025年9月末時点の家計の金融資産残高は2286兆円と、過去最高を更新しました。株高や新NISAによる投資資金の流入が背景にあり、日本の家計行動に構造的な変化が起きつつあることを示しています。一方で、現金・預金比率は歴史的な転換点を迎えており、金融政策や国債市場とも密接に関係しています。本稿では、今回の統計が意味するものを整理し、今後の家計・政策の論点を考察します。
家計金融資産が過去最高を更新した背景
2025年9月末時点の家計金融資産は2286兆円となり、前年同期比で4.9%増加しました。前四半期の伸び率が1.1%増にとどまっていたことを踏まえると、資産価格の上昇が家計全体に与える影響が一段と大きくなったことがうかがえます。
特に増加が目立つのが、株式と投資信託です。株式等は前年同期比19.3%増の317兆円、投資信託は21.1%増の153兆円となりました。日経平均株価が4万円台後半まで上昇したことに加え、新NISAを通じた長期・積立投資の定着が、家計のリスク資産保有を押し上げています。
現金・預金比率が示す構造変化
注目すべきは、現金・預金の比率です。残高自体は1122兆円と微増したものの、金融資産全体に占める比率は49.1%と、18年ぶりに50%を下回りました。とりわけ現金残高は減少しており、「貯める」から「運用する」方向への転換が統計上も明確になっています。
これは、インフレの定着や金利環境の変化を背景に、現預金の実質的な価値が目減りするという認識が家計に浸透してきた結果とも考えられます。新NISA制度が、その受け皿として機能している点も見逃せません。
保険・外貨建て資産と為替の影響
保険の残高は416兆円と、前年同期比で2.0%増加しました。背景には円安の影響があります。外貨建て保険は為替レートの変動によって円換算額が大きく変動するため、円安局面では評価額が押し上げられます。
この点は、家計資産の増加が必ずしも実質的な購買力の増加と一致しないことを示しています。為替による評価益と実体経済の改善を切り分けて見る必要があります。
家計と国債市場、金融政策の接点
今回の資金循環統計では、日銀の国債保有比率が50.0%と、約3年ぶりの低水準になった点も重要です。日銀は国債買い入れの減額を進めており、今後も緩やかな量的引き締めが続く見通しです。
家計がリスク資産への投資を拡大する一方で、国債市場では日銀の存在感が低下しつつあります。これは、国債の安定消化を家計や民間金融機関がどこまで担えるのかという問題を将来に残します。家計金融資産の増加は、日本財政にとって潜在的な支えである一方、資産配分の偏りが進めば市場変動の影響も受けやすくなります。
結論
家計の金融資産が2286兆円に達したことは、日本経済にとって明るい側面と課題の両方を映し出しています。株式・投資信託への資金流入は、長期的な資産形成の進展を示す一方、為替や市場変動に左右されるリスクも高まっています。
また、現金・預金比率の低下は、家計行動の転換点を示す重要なサインです。今後は、金融政策の正常化や財政運営のあり方と合わせて、家計金融資産の質と分布が問われる局面に入っていくと考えられます。資産総額の多さだけでなく、その中身をどう活かすかが、日本経済の持続性を左右するテーマになっていくでしょう。
参考
・日本銀行「資金循環統計(2025年7~9月期速報)」
・日本経済新聞「家計の金融資産2286兆円 9月末 株高受け過去最高」(2025年12月17日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

