<家計編③>非課税枠見直しと生活コスト減税 物価高に税制はどう対応しようとしているのか

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2026年度税制改正大綱では、住宅ローン減税やNISAの拡充といった目立つ制度改正の陰で、もう一つ重要なテーマが動いています。それが、長年据え置かれてきた「非課税枠」の見直しです。
物価が上がり続ける中で、税制が現実の生活コストに追いついていないという問題は以前から指摘されてきました。今回の改正は、そのズレを部分的に是正しようとする試みといえます。

食事代非課税枠の引き上げという象徴的改正

今回の税制改正で注目されるのが、企業が従業員に提供する食事代の非課税枠の引き上げです。月額7,500円という水準は、約40年ぶりの見直しとなります。
これまでの非課税枠は、制度が作られた当時の物価水準を前提としており、現在の食材価格や外食費とは大きな乖離が生じていました。実態としては、非課税で賄える範囲が年々縮小していたといえます。

この改正は、物価高が一時的な現象ではなく、ある程度定着しているという認識が政策側にも共有された結果と見ることができます。

非課税枠が果たしてきた役割

非課税枠は、家計に直接現金を給付する制度とは異なり、税負担を通じて間接的に可処分所得を増やす仕組みです。給与として支給すれば課税されるものを、一定範囲で非課税とすることで、実質的な負担を軽減します。
企業にとっても、福利厚生として導入しやすいという特徴があり、長年にわたり使われてきました。

一方で、非課税枠が据え置かれる期間が長くなるほど、実質的な効果は薄れていきます。名目上は同じ金額でも、物価が上がれば、非課税でカバーできる範囲は狭まるからです。

物価上昇と税制のズレ

今回の改正は、こうしたズレを是正する第一歩といえます。ただし、見直されたのはごく一部の非課税制度に限られています。
家計全体を見渡すと、通勤費、光熱費、子育て関連費用など、物価上昇の影響を強く受けている分野は数多くあります。それらが一律に税制で調整されているわけではありません。

この点から見ると、今回の非課税枠見直しは「生活コスト全体への包括的対応」というより、「象徴的な修正」にとどまっている側面があります。

家計にとっての実感と限界

食事代非課税枠が引き上げられたとしても、すべての家庭がその恩恵を受けるわけではありません。そもそも、企業が食事補助制度を導入していない場合、直接的な影響はありません。
また、月7,500円という金額自体も、現在の物価水準を考えると十分とは言い切れません。外食やコンビニ利用が増える中で、家計が感じる負担感を大きく変えるほどの効果があるかは限定的です。

それでも、この改正が持つ意味は「税制が物価を無視し続けるわけにはいかない」というメッセージにあります。非課税枠は固定的なものではなく、見直し得る対象であるという認識が示された点は重要です。

今後広がり得る論点

今回の改正をきっかけに、他の非課税制度についても見直し議論が進む可能性があります。例えば、通勤手当や各種手当の扱い、控除制度との関係などです。
物価が今後も緩やかに上昇する前提に立てば、非課税枠を長期間据え置くこと自体が、実質的な増税として機能してしまう可能性があります。

税制を通じた家計支援は、給付と減税のどちらが望ましいのかという議論とも密接に関わります。非課税枠の調整は、その中間的な手法として位置づけられますが、万能ではありません。

家計に求められる視点

家計側から見れば、非課税制度の有無だけに期待するのではなく、実際の支出構造を把握することが重要です。税制の調整は、どうしても後追いになりがちです。
物価が上がる局面では、税制だけに頼らず、支出の見直しや収入構造の工夫といった自助的対応も避けて通れません。

結論

非課税枠の見直しは、物価高時代における税制の限界と可能性を同時に示しています。今回の改正は、生活コスト上昇への全面的な対応とは言えませんが、税制が現実を無視できなくなっていることの表れです。
家計にとっては、こうした制度変更を過度に期待するのではなく、長期的な視点で生活設計を見直すことが求められます。税制は助けにはなりますが、万能な解決策ではありません。

参考

日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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