2026年度税制改正大綱では、家計向け減税が数多く盛り込まれました。その中でも象徴的なのが、住宅ローン減税の見直しです。これまで新築住宅を中心に設計されてきた減税制度は、中古住宅へと大きく軸足を移しつつあります。
中古住宅を対象とするローン減税の限度額引き上げや適用期間の延長は、単なる負担軽減策にとどまりません。住宅市場の構造や、家計の住まい選択に対する政策のメッセージが、明確に変わり始めています。
中古住宅への支援拡充という大きな転換
今回の税制改正では、中古住宅を取得した場合の住宅ローン減税について、対象となるローン限度額を最大4,500万円に引き上げ、控除期間も13年に延ばす方向が示されました。これまで中古住宅の限度額は新築より低く設定され、制度上も脇役の扱いでした。
この見直しは、中古住宅を「やむを得ない選択肢」ではなく、「積極的に選ばれる住まい」と位置づけ直す政策転換といえます。
背景には、新築住宅価格の高騰があります。建築コストや人件費、資材価格の上昇により、特に都市部では新築マンションや戸建ての取得が家計にとって現実的でなくなりつつあります。減税を新築に集中させ続けることは、政策効果が限定的になっていました。
新築偏重からの脱却と住宅ストック政策
今回の改正は、住宅政策全体の流れとも一致しています。日本には既に大量の住宅ストックが存在し、人口減少が進む中で新築を増やし続けるモデルは持続しません。
中古住宅を取得し、リフォームやリノベーションを行いながら長く使う方向へ誘導することは、空き家対策や地域活性化とも重なります。住宅ローン減税は、その流れを後押しするための重要な政策ツールになっています。
税制が示すメッセージは明確です。
「新築を買える人だけを支援する時代は終わりつつある」ということです。
家計にとっての実務的な意味
では、この見直しは家計にどのような影響をもたらすのでしょうか。
ローン限度額が4,500万円まで引き上げられることで、立地条件の良い中古マンションや、築年数が浅めの物件も減税の射程に入ります。新築に比べて価格を抑えつつ、税制上の不利が縮小するため、総合的な負担感は大きく変わります。
また、控除期間が13年になることで、住宅ローン返済の初期から中期にかけての家計の可処分所得を安定させる効果もあります。これは、教育費や老後資金準備といった他のライフイベントとの両立を考えるうえで重要です。
一方で注意点もあります。中古住宅は物件ごとの品質差が大きく、修繕費や管理費、将来の資産価値を含めた判断が欠かせません。税制だけを見て判断すると、結果的に家計負担が増える可能性もあります。
住宅ローン減税が示す「選び方」の変化
これまで住宅購入は、「新築か中古か」という二択で語られがちでした。しかし今後は、「中古+リノベーション」「立地重視」「性能証明付き住宅」といった複合的な選択が主流になっていくと考えられます。
住宅ローン減税の見直しは、そうした選択肢の広がりを制度面から後押しするものです。
減税はあくまで補助的な要素であり、住宅そのものの価値を高めるわけではありません。ただし、税制の方向性を読み取ることで、将来の市場動向や政策の優先順位を知るヒントになります。
結論
2026年度税制改正における住宅ローン減税の見直しは、単なる家計支援策ではなく、日本の住宅政策が新たな段階に入ったことを示しています。新築偏重から中古・ストック活用へという流れは、今後も続く可能性が高いでしょう。
家計にとって重要なのは、減税の有無だけで判断するのではなく、住宅の価値、立地、将来の生活設計を含めた総合的な視点を持つことです。税制はその判断を支える一つの材料にすぎません。
参考
日本経済新聞「家計・企業の減税ずらり 来年度税制大綱、与党詰め」(2025年12月13日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
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