世界金融市場の変調シリーズ 第7回 複数資産が同時に下落したとき何が起きるのか:連鎖反応と市場ストレスのメカニズム

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

2025年の市場では、金・株式・コモディティなど、通常は異なる方向に動く資産が同時に上昇する珍しい状況が続いています。これは裏返せば、「同時に下落するリスク」も高まっていることを意味します。歴史的にみても、複数の資産クラスが連動して下落する局面は、市場ストレスが最大化し、投げ売りや流動性不足が深刻化する特徴があります。本稿では、同時下落が起きたとき市場で何が起こるのか、どのようなメカニズムで連鎖が拡大するのか、過去の事例と現在の環境を踏まえて解説します。

1. 複数資産の同時下落はなぜ起きるのか

通常、株が下がれば金が買われる、債券が買われれば株が売られるなど、資産間には逆相関が働きます。しかし2025年の市場は、資産間の逆相関が弱まり、むしろ相関が高まっています。

同時下落が起きる主な要因は次のとおりです。

① 市場を動かすテーマが共通化している
AI投資、地政学リスク、金利不安など、複数資産が同じストーリーで動いています。

② 投資マネーが一極集中している
特定テーマが崩れると、そこに集まっていた資金が一斉に流出します。

③ 個人投資家が市場全体に影響を与える規模になっている
第6回で述べた通り、同じタイミングで売買が集中しやすくなっています。

④ リスクパリティ(リスク均等型運用)など、共通のポジションが増えている
プロの投資家も似たような運用手法を採用しており、同じ方向に動きやすい構造です。

このように、資産ごとの独立性が弱まり、同じきっかけで全体が動く「連動市場」になっています。


2. 下落の連鎖はどのように拡大するのか:連鎖の5段階

複数資産の同時下落は徐々に進むのではなく、以下のような段階を経て“連鎖反応”になります。


ステップ①:少しの悪材料がテーマ崩壊につながる

AI関連銘柄の決算不調や地政学ニュースなど、小さなきっかけで市場心理が変わります。


ステップ②:特定資産に集中していた資金が一斉に流出

金・株・コモディティなどテーマ投資の対象になっていた資産は、同時に売られやすくなります。


ステップ③:下落に伴い証拠金・マージンコールが発生

信用取引や先物、レバレッジETFなどで運用していた投資家が強制決済に追い込まれます。


ステップ④:流動性が急激に低下し、価格変動が加速

売りが売りを呼ぶ展開になり、買い手が不足します。


ステップ⑤:安全資産(国債・現金)へ資金が逃避

複数資産が同時に売られる一方、安全資産への急速な移動が発生します。


この結果、個人投資家だけでなくプロの投資家やアルゴリズム取引まで巻き込み、市場全体が短期間で急変動する可能性が高まります。


3. 過去の“同時下落”局面は何をもたらしたか

歴史を振り返ると、複数資産が同時に崩れた局面にはいくつか共通点があります。


① 1987年:ブラックマンデー

  • 株式市場全体が一斉に下落
  • 当時急拡大したプログラム取引の“売り連鎖”が増幅
  • 金は安全資産として買われず、逆に下落局面も発生

教訓:仕組み化された投資行動が同時売りを誘発する。


② 2008年:リーマンショック

  • 世界中の金融商品が一斉に売られる“グローバル連鎖”
  • 金まで一時的に売られ、現金化が優先される局面が出現
  • 信用収縮により流動性が急速に枯渇

教訓:危機が深いほど、現金以外の全てが売られる可能性がある。


③ 2020年:コロナショック

  • 全資産が“現金確保”のため売られる現象
  • 原油は先物価格がマイナスに振れる歴史的異常
  • パニック局面では安全資産の概念すら機能しない

教訓:市場ストレスが高いと、安全資産も売られる。


2025年の市場は、これらの局面と似た条件を複数抱えています。


4. なぜ“安全資産まで下落”するのか:市場ストレスの仕組み

複数資産の同時下落を理解するうえで重要なのが、「安全資産が機能しなくなる理由」です。

① 現金需要の急増

投げ売りが続くと、投資家はポジション維持よりも現金確保を優先します。

② マージンコール対応のための資産売却

安全資産を含む全ての資産が売られやすくなります。

③ 市場参加者の“同じ方向への動き”

分散効果が働かず、相関が1に近づきます。

④ 運用モデルの一律化

リスクパリティ・AI運用モデルなど、プロが似た行動をとることで、売り圧力が増幅されます。

安全資産は本来、市場が不安定なときの逃避先ですが、市場ストレスが一定のラインを超えると、「現金>あらゆる資産」という価値観に転換します。


5. 2025年の市場が同時下落リスクを抱える理由

2025年は特に同時下落の危険性が高い構造を持っています。

  • 金・株・資源が同じテーマ(AI・地政学)で連動
  • 個人投資家の資金が複数市場に跨っている
  • 金利の変調が市場の基準線を揺らしている
  • マネーが数箇所に偏っており、逆回転すると同時流出
  • 流動性が低下した資産(国債など)が増えた

特に金の投機化とAI株のテーマ化が同時進行している点は、過去にあまり例がありません。同じ方向に動いてきたものほど、反対方向に動き始めると加速しやすくなります。


結論

複数資産が同時に上昇する市場は、一見強いように見えますが、実際には崩れやすい危うさも抱えています。金・株式・資源などが同じ物語で買われている現在の環境では、ひとつのショックが市場全体の連鎖反応につながるリスクが高まっています。

安全資産が安全でなくなる局面は、市場ストレスが高まっているサインです。投資家としては、資産の相関が変化する瞬間に敏感であること、現金比率やリスク管理を意識してポートフォリオを整えることが重要です。市場が単独ではなく“セットで動く”という前提に立つことで、不測の事態にも備えられるようになります。


参考

  • 日本経済新聞・市場変調関連報道
  • BIS・IMF 市場ストレス分析
  • 過去のブラックマンデー、リーマンショック、コロナショックの市場データ
  • 行動経済学・市場相関分析の研究

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました