世界金融市場の変調シリーズ 第2回 世界の金利構造の変調:長短金利のねじれと財政のゆがみ

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2025年の金融市場では、世界の金利構造が大きく揺らいでいます。米国では利下げ観測が強まる一方、日本では長期金利が2%目前まで上昇し、主要先進国で金利の方向感が大きく異なる珍しい局面となっています。本来であれば、金利が上がれば株価は調整し、金利が下がれば株価は上昇するというセオリーがあります。しかし現在は、株価と金利が同時に上昇するなど、従来の関係が崩れた「ねじれた市場」が広がっています。本稿では、世界金利の歪みがなぜ生まれたのか、各国の財政事情とどのように関係するのか、今後の投資行動に何を示唆するのかを解説します。

1. 米国は利下げ、日本は利上げ。それでも為替が動かない異例の環境

米国ではインフレ率が落ち着き始め、金融市場では利下げが年内に複数回行われるという見方が広がっています。通常であればドル安・円高が進む環境です。しかし足元では円相場は1ドル=155円台を中心に膠着し、為替の反応が鈍い状態が続いています。

一方で、日本は植田日銀総裁のもとで政策金利を段階的に引き上げる方向にあり、10年債利回りは2%目前まで高まっています。本来なら「日米金利差縮小→円高」になるはずが、実際には大きく動きません。このねじれは、金利だけでは説明できない市場構造の変化を示しています。

要因としては次が挙げられます。

  • 世界の投資資金が特定資産(AI関連株・金)に集中
  • 円に対する「ヘッジ通貨」としての魅力が薄れた
  • 日本の潜在成長率や財政懸念が円高圧力を弱めている

金利の方向感と為替の動きが一致しないほど、市場の基礎構造が変わりつつあることを示唆しています。


2. 長短金利の「逆転現象」は景気後退のシグナルか

米国では2022〜2024年にかけて長短金利が逆転する逆イールドが続きました。本来、長期金利は将来の成長期待を反映するため短期金利より高いのが一般的です。しかし逆イールドは「短期金利>長期金利」となるため、景気後退の予兆として知られています。

現在は逆イールド幅が縮小しつつあるものの、金利構造の歪みが完全に解消されたわけではありません。

  • 利下げ観測が強まり長期金利が押し下げられやすい
  • 財政赤字による国債大量発行で金利が上がりにくい
  • 投資資金が株式に向かい、安全資産への需要が低下

短期的な市場は景気回復を織り込む一方、長期市場は財政と成長のバランスに不安を感じている。こうしたアンバランスが金利の変調として表れています。


3. 財政赤字と国債発行が金利をゆがめる構造

世界各国で財政赤字が拡大し、国債発行が急増しています。特に米国では国債残高が過去最大規模となり、長期債の需給が金融市場の安定に直結する状態になっています。

本来、国債が大量に発行されれば金利は上昇します。しかし現実には次のような要因で金利上昇が抑えられています。

  • グローバル資金が米国債に流入(「逃避先」としての強さ)
  • FRBによるバランスシート縮小が限定的にとどまっている
  • 世界的なインフレ鎮静化により長期的な金利上昇圧力が弱い

一方で日本は、国債市場の流動性低下という別の問題を抱えています。日銀が大量の国債を保有しているため、市場での売買が細り、わずかな需給変化でも金利が大きく振れやすいのが特徴です。10年金利が2%目前まで上昇した背景には、この「市場薄さ」の影響もあります。


4. 株と金が同時に上がる“金利の歪み相場”

金利が上がれば通常、株価は割引率上昇により下落しやすくなります。しかし2025年の相場では、金利上昇下でも株価が上昇し、金も上昇しています。この異常な相場が示すのは、次の3点です。

  1. 実体経済より市場マネーの量が価格を決めている
  2. 投資家の“テーマ選好”が極端に偏っている(AI・金)
  3. 金利ではなくセンチメントが市場を動かす局面に入っている

市場では「金利上昇=割高感」といった古典的な判断よりも、「テーマの強さ」「資金の勢い」が優先されています。これはバブル期に共通する特徴です。


5. 金利変調が引き起こす“次のリスク”とは

世界の金利構造の歪みは、金融市場に次の3つのリスクを内包しています。

①複数資産の同時下落(マルチアセット・クラッシュ)
株と金が同時に上がるという異常は、同時に下がるリスクの裏返しです。

②国債市場の不安定化
金利がボラティリティを高めると、国債価格が乱高下し、金融機関のバランスシートに影響します。

③為替市場の急変動
金利差が十分に為替に反映されていない状態は、何かのきっかけで急激な動きを起こしやすい環境です。

金利は市場の「基準点」です。この基準点が揺らいでいる状態こそ、世界金融市場の最大の警戒ポイントと言えます。


結論

2025年の世界金融市場では、金利が“本来の役割”を果たせない異例の状態が続いています。米国と日本で金利の方向が異なるにもかかわらず、為替が動かない。金利が上昇しても株や金が買われ続ける。こうした構造は、マネーがテーマや期待値に偏っていることを示しています。

金利構造の変調は、市場が本質的な価値ではなく「資金量」と「センチメント」で動いているサインです。投資家としては、金利の動きそのものよりも、金利が“市場でどう解釈されているか”を注視する必要があります。特に国債市場と金利の変動は、次の下落局面を引き起こす引き金となり得るため、慎重な資産配分が求められます。


参考

  • 日本経済新聞(2025年12月)金利・為替関連報道
  • 各国中央銀行議事要旨・声明
  • 市場データ(長短金利差、国債需給動向など)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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