仮想通貨を保有する上場企業が急増する今、何が起きているのか

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暗号資産への投資を主目的とする上場企業が、世界で急速に増えています。2025年10月時点では142社に達し、年初から2倍以上の伸びとなりました。こうした企業は「仮想通貨トレジャリー企業(Digital Asset Treasury Companies=DAT企業)」と呼ばれ、株価が仮想通貨と連動する特徴を持ちます。企業の資産戦略や上場ルールにまで影響が及び始めており、国内外の証券取引所が警戒を強めています。本稿では、この動きの背景と課題を整理します。

1. DAT企業とは何か

DAT企業は、ビットコインなどの暗号資産を自社の主要資産として保有し、運用益を重視する企業のことを指します。代表例は米マイクロストラテジー(現ストラテジー)で、ソフトウエア事業から暗号資産投資へと大きく舵を切りました。同社はナスダック100に選定されたことを機に、多くの金融機関が株式を組み入れ、株価は大きく上昇してきました。

ビットコインと株価の連動性が高いため、仮想通貨市場の拡大局面では株価も上昇しやすい特徴があります。


2. 日本でもDAT企業が増加

日本にもおよそ10社のDAT企業が存在するとみられます。代表例として、メタプラネットやコンヴァノが挙げられます。
メタプラネットは2025年9月末時点で保有するビットコインが総資産の99%を占めており、まさに仮想通貨特化型の財務構造になっています。

また、SBIホールディングスが米国のDAT企業へ出資を発表するなど、国内大手企業による関与も表面化しています。


3. 株価の急変動と市場リスク

DAT企業の株価は仮想通貨の価格変動の影響を受けやすいため、市場全体に波及するリスクが指摘されています。
ビットコインが下落した際には、ストラテジー株が1日で1割下落する場面もありました。

さらに、DAT企業の中には、銀行借入で仮想通貨を購入しつつ、株式が信用取引で売買されているケースもあります。そのため、価格変動が株価に増幅されて反映されやすく、ボラティリティが大きくなる傾向があります。

株価指数を算出するMSCIも、総資産の半分以上を仮想通貨が占める企業については指数採用の見直しを議論しています。


4. 東証が警戒を強める理由

東京証券取引所は、DAT企業が増えることに警戒感を示しています。背景には、以下のような構造があります。

  • 2022年に上場基準を厳格化したため、その基準を回避する目的で事業転換する企業が出る可能性がある。
  • プライム・スタンダード市場での上場維持基準の経過措置が25年3月以降順次終了するため、基準未達企業が上場廃止回避のためにDAT型へ転換する懸念がある。
  • 2030年にはグロース市場の維持基準が現在より重くなる予定であり、事業転換の誘因が強まる可能性がある。

実際、和装品事業を営んでいた堀田丸正は社名をBitcoin Japanへ変更し、定款にビットコイン関連事業を追加しました。
上場審査を担当する日本取引所自主規制法人の理事長は、「仮想通貨を購入するだけでは上場審査を通らない」と述べていますが、上場後にDAT企業へ転換することを直接規制するルールは現時点では存在しません。

こうした状況を踏まえ、東証の有識者会合では、上場後の事業内容変更に対するルール見直しが議論されています。


5. 投資家にとっての論点

DAT企業への投資は、通常の上場企業とは異なるリスク構造を持ちます。主なポイントは次の通りです。

  • 株価が仮想通貨と連動するため、事業収益よりも相場次第で企業価値が動く
  • 借入を使った暗号資産投資が行われる企業もあり、財務リスクが高まりやすい
  • 市場全体の指数構成に影響が及び、ETFや指数連動商品のリスク構造も変化する
  • DAT化は上場基準回避に利用される可能性があり、コーポレートガバナンスの観点で課題が残る

仮想通貨市場の成長に乗る一方で、株式投資としてのリスク判断がより複雑になる点が注目されます。


結論

DAT企業の急増は、暗号資産市場の拡大が企業財務のあり方を変え始めていることを示しています。一方で、株価の変動性の高さやガバナンス面の課題、上場制度との整合性といった論点も明確になりつつあります。投資対象として魅力がある側面はありますが、企業の事業実態、財務構造、仮想通貨市場の動きが密接に連動することを踏まえ、慎重な分析が求められます。国内市場でもDAT企業の増加が予想されるなか、規制や基準の見直しがどのように進むかが今後の重要な焦点となります。


参考

・日本経済新聞「仮想通貨運用の上場企業が急増」(2025年12月9日)
ほか、関連報道および公開データを基に加筆・再構成。


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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