2024年1月の能登半島地震では、液状化によって土地がずれたり、隣家との境界が変形する被害が多く発生しました。建物や塀が隣接地にはみ出すケースも生じ、地元の住民の間では「境界のやり直し」「所有権の調整」という難しい問題が広がっています。政府・与党はこうした状況を踏まえ、2026年度税制改正で新たな支援策として、液状化に伴う 所有権の移転登記にかかる税負担を免除する制度 を創設する方針を固めました。
今回の措置は、復興の大きな障害となっている「土地のずれ」による所有権調整を円滑にし、被災地で安心して再建を進められる環境を整えることを目的としています。
1. 液状化で何が起こったのか
能登半島地震では、地震動の大きさに加えて地盤の弱い地域が多かったことから、液状化が広範囲に発生しました。防災科学技術研究所による調査では、東京ドーム約400個分に相当する 19平方キロメートル もの範囲で被害が確認されました。
液状化が起こると地盤が急激に緩み、土地そのものが沈下したり、横方向にずれたりします。この結果:
- 隣家境界の塀が押し出される
- 敷地の一部が隣接地に食い込む
- 建物の基礎が歪み、敷地境界線が不明確になる
といった問題が生じ、土地の境界を再確認するだけでなく、所有権の移転が必要となるケース が発生します。
2. 所有権移転に伴う税負担が復興の壁に
土地の一部を隣家へ移転したり、逆に相手方から譲り受けたりする場合には、法務局で所有権移転登記を行う必要があります。この際にかかるのが 登録免許税 です。
通常、土地の所有権移転登記には「固定資産税評価額×税率(一般的に2%)」の登録免許税がかかります。しかし被災地では、この税負担が大きく、復興に向けた手続きが進まない一因となっていました。
地震によって生じた不本意な土地のずれによる所有権調整は、住民にとっては追加負担であり、かつ被災からの再建を妨げる要素でもあります。
3. 登録免許税の免除で手続きを後押し
そこで政府・与党は、2026年度税制改正で 液状化被害が原因で土地がずれ、所有権の移転が必要となったケースに限り、登録免許税を免除する 新制度を設ける方針です。
想定されるケースとしては:
- 液状化により隣家の土地に塀が飛び出した
- 地盤のずれで造成地の区画が変形した
- 本来の境界線から建造物がはみ出した
といった事例が挙げられます。
税負担が免除されることで、住民は所有権調整を進めやすくなり、その後の建て替え、修繕、売買、相続といった手続きもスムーズになります。行政側も、復興計画の立案やインフラ整備を進めやすくなる効果が期待できます。
4. 登記の明確化は地域全体の復興に直結
土地登記は、生活再建だけでなく、道路・上下水道・公園整備など地域インフラの復旧にも密接に関わっています。所有権が曖昧なままでは、行政が復旧工事を進めることが難しくなります。
今回の税免除は、個々の住民の負担軽減にとどまらず 復興プロセス全体の加速 に寄与する重要な政策です。特に能登半島のように、地盤変動が生活圏全体にわたって起きた地域では、早期の登記調整が地域の再起に欠かせません。
5. 今後の具体的な運用と残された課題
2026年度税制改正大綱に盛り込まれる見通しですが、実務面では以下のような検討事項が残っています。
- どの範囲まで「液状化が原因」と認定するか
- 調整対象となる土地の面積や形状の基準
- 過去に調整を済ませたケースへの遡及適用の有無
- 登記手続きを支援する相談窓口の整備
特に評価額の算定や境界の再確認は専門性が高く、土地家屋調査士・司法書士・行政の連携が不可欠です。地域の高齢化も進む中、住民がスムーズに手続きできる体制づくりが求められています。
結論
能登半島地震で広がった液状化被害は、生活基盤を揺るがす深刻な問題です。今回の登録免許税の免除措置は、土地のずれによって所有権移転が必要になった住民の負担を軽減し、復興を前に進める重要な政策です。
税負担が取り除かれることで、登記手続きが進み、地域の再建の基盤が整いやすくなります。今後、制度の詳細や受付開始時期が明らかになれば、住民や専門職による実務対応も進み、復興のスピードがさらに高まることが期待されます。
参考
- 日本経済新聞「被災地の移転登記税免除 能登地震 液状化被害の支援策」(2025年12月7日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

