ふるさと納税制度をめぐる議論が再び大きく動き始めています。東京都と特別区長会などが国に対し、制度の「廃止を含めた抜本的な見直し」を要請したことが報じられました。返礼品競争の激化や都市部の税収流出が続く中で、制度の目的と現実の乖離が問題視されています。寄付者にとっては魅力ある制度である一方、自治体間の財源格差や行政サービスへの影響は看過できないものとなっています。
本稿では、今回の見直し要請の背景、制度が抱える構造的課題、今後の論点を整理しながら、ふるさと納税がどのような方向へ向かうのかを考えます。
1. 東京都などが国に「廃止含め見直し」を求めた理由
今回、国への要請に踏み切ったのは東京都および23区を構成する特別区長会です。共同要請文では、現行制度について以下のような強い表現が使われました。
- 「地方税制の趣旨を逸脱している」
- 「地方自治の根幹を破壊している」
- 「返礼品目的の官製通販となっている」
背景には、都市部から地方への税収流出が続いている現実があります。特に東京23区では、住民税の多くがふるさと納税によって他地域へ流れており、区の財政運営に深い影響を与えていると指摘されています。
制度の目的は「都市から地方への所得移転」でしたが、現在は返礼品をめぐる自治体間競争が過熱し、本来意図とは異なる形での寄付誘導が広がっているとみられています。
2. 要請内容のポイント
今回の要請で示された主な見直し項目は次の通りです。
(1) 控除額に上限を設ける
現在の制度は、一定の限度内において自己負担2,000円で返礼品が受け取れる仕組みで、寄付額が大きければ大きいほど住民税流出も増えます。都市部の自治体にとっては大きな財政負担となるため、上限設定が求められました。
(2) 返礼品経費の上限引き下げ
返礼品調達費を寄付額の「5割以下」と定めた基準はありますが、実務上は返礼品競争が高止まりする傾向があります。より厳格な上限が必要だとされています。
(3) ワンストップ特例制度の廃止
確定申告をしなくても自治体が控除を処理する仕組みですが、寄付のハードルが下がることで寄付額が増え、都市部の流出額が膨らむ原因のひとつとされています。制度の簡便性と税収流出のバランスが議論の焦点です。
これらの要請は、制度の存在そのものを問い直す姿勢を強く示しています。
3. なぜここまで制度が問題視されているのか
ふるさと納税制度には多くのメリットがある一方、以下のような構造的課題が蓄積してきました。
① 都市部の財源流出と行政サービスへの影響
住民税の一部が寄付として他自治体に流れることで、都市部では保育、福祉、教育などの行政サービスの財源に影響が出ています。特に人口密度が高く、行政需要が大きい自治体ほど負担が重くなります。
② 返礼品競争のエスカレート
自治体の「収益事業化」が進み、地場産品と呼びにくい商品が採用される例も見られ、制度本来の趣旨である「地域の魅力・産業振興」が薄れつつあります。
③ 寄付行動のゆがみ
本来の目的は「応援したい自治体への寄付」ですが、返礼品の価値や還元率が寄付動機の中心となり、寄付の選択が市場競争化しています。
④ 自治体間の不公平
財政力の強弱にかかわらず、返礼品の魅力で寄付を獲得できる自治体とそうでない自治体の差が広がり、地方間格差を助長している面もあります。
4. 制度の根本的な問い
制度創設時の理念は「出身地への寄付機会を広げる」「地方の自立を後押しする」ことでした。しかし、現在の状況は次のような構造的矛盾を抱えています。
- 地方財源の確保 → 返礼品経費や事務費の支出が増え、自治体の残る収支は圧縮
- 寄付の拡大 → 都市部の住民税流出の増加
- 地域活性化 → 一部地域では大型のPR費用や外部委託費が増加
制度を維持する場合でも、理念と運用をどう整合させるのかが大きな課題になります。
5. 今後の方向性はどうなるのか
制度見直しの議論は、2026年度税制改正の重要テーマのひとつになるとみられています。考えられる方向性としては次のような案が挙げられます。
- 控除上限の設定または段階的縮小
- 返礼品基準のさらなる厳格化
- ワンストップ特例の見直し
- 対象になる自治体の条件づけ
- そもそも制度を別スキームに移行する(寄付税制全体の再設計)
今後は「寄付による地域活性化」と「自治体間の財政公平性」という二つの価値をどう両立させるのかが焦点となります。
都市部の反発が強まる中、地方にとっても返礼品依存の構造から脱却し、持続可能な地域経済戦略に転換する必要性が増しています。
結論
ふるさと納税制度は多くの納税者にとって身近で魅力的な制度として定着しました。しかし、制度維持の裏側では自治体間の財源格差の拡大、返礼品競争の過熱、行政コストの増大など、大きな課題が顕在化しています。
今回、東京都や特別区長会が「廃止も含めた抜本的見直し」を国に要請したことは、制度がいま転換点にあることを象徴しています。制度を続けるにせよ、見直すにせよ、地方自治体の財源確保と住民サービスの安定が揺らがない構造を再構築することが欠かせません。
寄付者にとっても、返礼品だけではなく“応援したい地域を選ぶ”という原点に立ち返る姿勢が求められるのかもしれません。
参考
- 日本経済新聞「ふるさと納税見直し要請」(2025年12月6日)
- 地方財政制度・寄付税制に関する総務省資料
- 各自治体のふるさと納税受け入れ・流出状況データ
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
